「世界経済は recession に入りつつある」
ニュースで何度も耳にする recession(リセッション /rɪˈseʃn/)。
「景気後退」という訳語は知っていても、なぜ「後退」なのか、他の経済用語とどう違うのか、はっきり答えられる人は多くないかもしれません。
ところがこの単語、分解すると・・・ビジネスの会議で毎日のように飛び交うカタカナ語の、ちょうど真逆の形をしています。
なお recession は、学術語彙リスト TSL(TOEIC Service List)と BSL(Business Service List)の2つに収録されている単語です。ニュース英語とビジネス文書で出会う確率が高い一語ということになります。
recession を分解してイメージで覚える
recession を語源のパーツに分けると、こうなります。
re-(後ろへ)+ cess(行く・譲る)+ -ion(名詞語尾)
語源の核は、ラテン語の動詞 recedere(後ろへ行く、退く、身を引く)。中身は re(後ろへ)+ cedere(行く・譲る) です。
進んでいたものが、向きを変えて後ろへ下がっていく。
それが recession の本来の姿です。「悪い」のではなく「後ろへ下がっている」。この一点を押さえておくと、経済の話でも、海岸線の話でも、生え際の話でも、同じ絵が浮かびます。
「プロセス」と「リセッション」・・・同じ cess が逆を向く
ここからが本題です。
recession の真ん中にある cess(cedere=行く)。これとまったく同じパーツを、私たちは会議室で毎日使っています。
process(プロセス) です。
- process = pro-(前へ)+ cess(行く) = 「前へ進んでいくこと」→ 過程・工程
- recession = re-(後ろへ)+ cess(行く) = 「後ろへ下がっていくこと」→ 景気後退
「結果よりプロセスが大事」「製造プロセス」「選考プロセス」。あの前向きなカタカナ語と、暗いニュースで出てくる recession が、同じ動詞の前後逆向きだったわけです。
pro- が前、re- が後ろ。真ん中の cess は動かない。この2語を並べて覚えておくと、接頭辞が方向を決めているという感覚が一度でつかめます。
ついでに言えば、procedure(手順) も proceed(進む) も同じ pro- 側の家族です。前へ進む側の一族については procedure の記事でまとめてあるので、そちらもどうぞ(記事末にリンクを置いています)。
recession の基本の意味と使い方
recession は「景気後退・後退・撤退」を表す名詞です。
- 経済:The country slipped into a recession last year.(その国は昨年、景気後退に陥った)
- 一般:the recession of the glaciers(氷河の後退)
- 比喩:a recession of the hairline(生え際の後退)
現代の英語では、圧倒的に経済の意味で使われます。ただ、もともとは「後ろへ下がること」一般を指す言葉で、経済以外の文脈でも生きています。
ちなみに「景気後退」と訳される英語には downturn(下降)、slump(急落)、depression(不況) などもあります。この中で depression がいちばん重く、長く、深い落ち込みを指します。1930年代の世界的な不況を the Great Depression と呼ぶのは、そのためです。
「休み時間」と「景気後退」が、なぜ同じ家族なのか
ここが recession のいちばん面白いところです。
同じ recedere から生まれた名詞に、recess があります。アメリカの学校で「休み時間」、議会で「休会」を指す、あの recess です。
「退く」と「休み」。意味が離れているようですが、意味が育った順番を並べると、きれいに一本につながります。
| 年代 | recess の意味 |
|---|---|
| 1530年代 | 退くこと(現在は使われない意味) |
| 1610年代 | 隠れた部分、奥まった場所 |
| 1620年代 | 通常の仕事を止めている期間 |
| 1630年代 | 隠遁の場所 |
| 1690年代 | くぼみ、引っ込んだ空間 |
注目は1620年代です。この「仕事を止めている期間」という意味は、議会の議員たちが審議の場から私室へ”引っ込む”習慣から来たと考えられています(語源辞典も probably と留保つきで記しています)。
議場から退く。だから recess。それが「休会」になり、やがて学校の「休み時間」になった。
つまり recess の「休み」は、物理的に後ろへ下がる動作から、ひと続きで育った意味だったわけです。「休む」と「退く」は、英語の中では最初から地続きでした。
ついでに、壁の「くぼみ」を recess と呼ぶのも同じ発想です。壁面から後ろへ引っ込んでいる部分、ということですね。リフォームの文脈で出てくる recessed lighting(埋め込み照明)の recessed も、これです。
1929年秋、recession という言葉が生まれた
さらに踏み込みます。
recession が「後退すること」一般を指す語として英語に入ったのは1640年代。ところが「一時的な景気の落ち込み」という経済用語としての用法は、1929年秋に生まれた新しいものです。
1929年秋といえば、世界恐慌が始まったまさにその時期です。同年11月の英経済誌 The Economist の記事に、この用法の初期の例が確認されています。
そしてこの語は、「後ろへ行く」という名詞 recession から直接というより、「一時休会する」という動詞 recess から作られた可能性が高いとされています(語源辞典は probably としています)。
ここが効いてきます。
- depression(1826年までに経済用語として定着)・・・押し下げられている。沈んでいる
- recession(1929年秋)・・・一時的に、議会のように、ちょっと休んでいる
語源研究者のジョン・エイトーは、この語の誕生には婉曲表現の意図がかなり強くあった、と指摘しています。
崩壊している、とは言いたくない。でも何か名前は要る。そこで「ちょっと退いているだけ」という、休み時間の語感を持った言葉が選ばれた・・・という流れです。
言葉の作られ方そのものに、当時の空気が残っている一語だと思います。
recessive(劣性)も、この一族
もうひとつ、理科の授業で出会っていた単語を紹介します。
recessive です。遺伝の「劣性」。
- recessive(1670年代)・・・もとの意味は「後退する性質の、後ろへ下がる」
- 遺伝学の意味は1900年から。メンデルが1865年に使ったドイツ語 recessiv(引っ込んでいる)を英語に取り込んだもの
表に出てこない。奥へ引っ込んでいる。だから recessive。「劣っている」という意味は、もともとの語には一切含まれていません。
これは日本語の「劣性」という訳語がやや不正確だった例で、近年の教科書では「潜性」という表記が使われるようになっています。語源をたどると、「潜む」のほうが原義に近いことがわかります。
注意点|reception とは別語源です
recession と綴りが近く、取り違えやすいのが reception(受付・歓迎会・受信) です。こちらは別の家族です。
| 単語 | 中身 | 語根 |
|---|---|---|
| recession / recess | re-(後ろへ)+ cedere(行く・譲る) | 印欧祖語 *ked- |
| reception / receive | re-(再び・後ろへ)+ capere(取る・つかむ) | 印欧祖語 *kap- |
cedere は「行く」、capere は「取る」。意味も語根もまったく別です。
ホテルのレセプションは「お客を受け取る」ほう、リセッションは「経済が退く」ほう。綴りの ce と ci、cess と cept の違いが、そのまま一族の違いになっています。
capere(取る)の一族については、別記事でまとめています(記事末のリンクから)。
派生語|recession まわりと、re + cedere 一族
まず recession の直系です。
| 単語 | 品詞 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|---|
| recession | 名詞 | 景気後退、後退 | リセッション /rɪˈseʃn/ |
| recede | 動詞 | 後退する、遠のく、薄くなる | リスィード /rɪˈsiːd/ |
| recess | 名詞・動詞 | 休み時間、休会、くぼみ/休会する | リーセス /ˈriːses/ |
| recessive | 形容詞 | 潜性(劣性)の、後退する | リセスィヴ /rɪˈsesɪv/ |
| recessionary | 形容詞 | 景気後退の(1949年、米政府報告書から) | リセッショネリ |
| recessional | 形容詞・名詞 | 後退の/退堂聖歌(1864年) | リセッショナル |
次に、cedere の一族のうち、この記事で触れた前後の顔ぶれです。
| 単語 | 語源構造 | 現代の意味 |
|---|---|---|
| process | pro-(前へ)+ cess | 過程、工程、プロセス |
| recession | re-(後ろへ)+ cess | 景気後退、後退 |
| access | ac-(〜へ)+ cess | 接近、利用権 |
| excess | ex-(外へ)+ cess | 超過、過剰 |
| concede | con-(共に)+ cede | 譲歩する、認める |
| secede | se-(離れて)+ cede | 脱退する、分離する |
| intercede | inter-(間に)+ cede | 仲裁する、とりなす |
「ced / cess / ceed が入っていたら、たぶん『行く』の話」。あとは頭についた接頭辞が、前なのか後ろなのか、外なのか間なのかを決めているだけです。
TOEIC・英検での出題傾向
TOEIC L&R では、recession は Part 7 の記事・ニュース記事型の長文で登場します。Part 5 の語彙問題よりも、読解の背景語として出てくるタイプです。
押さえておきたい形は次の通りです。
- economic recession(景気後退)/global recession(世界的な景気後退)
- slip into a recession(景気後退に陥る)/recover from the recession(景気後退から立ち直る)
- during the recession(不況期に)/in the wake of the recession(景気後退を受けて)
- recessionary pressures(景気後退圧力)・・・経済レポートの定型句
- recession-proof(不況に強い)・・・求人広告や業界紹介でよく使われる形
英検(準1級〜1級)では、経済・社会をテーマにした長文で登場します。unemployment(失業)、inflation(インフレ)、stimulus(景気刺激策)などとセットで読む場面が多い語です。
実務で知っておくと役立つのが、recession の定義が一つではないという点です。「2四半期連続でGDPがマイナス」という有名な目安は、1974年に米労働統計局長官 Julius Shiskin がニューヨーク・タイムズ紙に書いた複数の判断基準のうちの一つが独り歩きしたもので、米国の景気後退を公式に判定する NBER(全米経済研究所)はこの基準を採用していません。英語のニュースで “technically in a recession” という言い回しが出てきたら、この話をしています。
英文で確認|翻訳練習10問
英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。
- You kept your small shop open through the whole recession.
- The company cut its budget during the recession.
- You reminded him that every recession eventually ends.
- Hiring usually slows down in a recession.
- The children ran outside as soon as recess began.
- You stayed calm when the market showed signs of recession.
- The tide was receding when you reached the beach.
- Congress will vote on the bill after the summer recess.
- You helped your parents plan for a possible recession.
- A recessive trait can stay hidden for generations.
語源メモ|recedere から recession へ
recession は1640年代に英語に入りました。フランス語 récession(後ろへ下がること、退くこと)を経由し、またラテン語 recessionem(主格 recessio、「後ろへ行くこと」)から直接取り込まれています。これは動詞 recedere(後ろへ行く、退く、身を引く)の過去分詞幹から作られた行為名詞です。
パーツは re-(後ろへ)+ cedere(行く・譲る/印欧祖語 *ked-「行く・譲る」)
ラテン語 cedere は「行く」と「道を空ける・譲る」の両方の顔を持つ動詞で、接頭辞と組み合わさって膨大な数の英単語を生み出しました。accede / access / cease / concede / exceed / excess / intercede / necessary / precede / proceed / process / recede / recess / secede / succeed・・・。
英語の cede(割譲する) は1630年代に cedere から直接入った語で、この一族の中では比較的新しい顔です。
なお、動詞 recede 自体は recession より200年以上早く、15世紀初頭に英語へ入っています。最初は「立ち去る」という意味で、「後退する・遠のく」の意味が主になったのは後のことです。「後ろへ傾斜している」という意味(receding roof など)は1866年から。receding hairline(後退する生え際)という言い方も、この系統です。
経済用語としての recession が1929年秋の新造語だという点は本文で触れた通りですが、形容詞 recessionary(景気後退の)はさらに遅く、1949年の米政府報告書から記録されています。
まとめ
recession は re-(後ろへ)+ cess(行く)+ -ion で、「後ろへ下がっていくこと」。
- process との関係・・・同じ cedere(行く)。pro-(前へ)なら進む、re-(後ろへ)なら退く
- recess も同じ家族・・・議会が議場から”引っ込む”ことから、1620年代に「休会」の意味が生まれ、学校の休み時間に
- 1929年秋生まれ・・・depression(1826年までに定着)より100年新しい。「崩壊」ではなく「一時休止」と言いたかった婉曲表現
- recessive・・・「劣っている」ではなく「引っ込んでいる」。だから近年は「潜性」
- 注意・・・reception / receive は capere(取る)由来で別語源

- 語源・中心:re-(後ろへ)+ cedere(行く・譲る)=「後ろへ下がっていく」
- recession 直系:recede/recess/recessive/recessionary/recessional
- 逆を向く兄弟:process/proceed/procedure(pro-=前へ)
- 隠れた仲間:concede/secede/intercede/cede
関連記事(内部リンク)
- procedure の語源|ced / ceed 一族の全体像(proceed・process・precedent・succeed)
→ https://isseisuzuki.org/proceduresurgical/ - excessive の語源|アクセスと同じ語源、近づくか行き過ぎるか → https://isseisuzuki.org/excessive/
- necessary の語源|ne(〜でない)+ cedere =「退けない」 → https://isseisuzuki.org/necessary/
- intercept の語源|capere(取る・つかむ)一族 → https://isseisuzuki.org/intercept/
- 英単語の語源・パーツ分解 全リスト 👇 → https://isseisuzuki.org/etymology-parts-list/

翻訳練習の解答例
- あなたは景気後退の間ずっと、小さな店を開け続けた。
- その会社は景気後退の間、予算を削減した。
- あなたは彼に、どんな景気後退もいつかは終わるのだと思い出させた。
- 不況期には、たいてい採用の動きが鈍くなる。
- 休み時間が始まるやいなや、子どもたちは外へ駆け出していった。
- 市場に景気後退の兆しが出ても、あなたは落ち着いていた。
- あなたが浜辺に着いたとき、潮は引いているところだった。
- 議会は夏の休会のあとで、その法案を採決する。
- あなたは両親が、起こりうる景気後退に備える手助けをした。
- 潜性(劣性)の形質は、何世代にもわたって現れないまま潜んでいることがある。

