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40代・氷河期世代が「静かな退職」を選ぶとき——自己肯定感を守りながら、不条理を生き抜く方法

著者情報
【著者:鈴木一世(イッセー)】

現役大学教員・カウンセラー。
  専門の「第二言語習得理論」と「心理学」に基づき、氷河期世代・非正規雇用・転職に関わるリスキリング戦略をデータで解説。挫折しそうな人のための、脳と心の攻略ガイド。  

▶︎ 詳しいプロフィールはこちら

「なんで自分だけこんな目に遭うんだろう」と思ったことはないだろうか。

就職活動で散々な目に遭い、ようやく入った会社でも評価されない。

給与は上がらず、後輩に追い越される。「これだけがんばってきたのに」という思いと、「もう疲れた」という感覚が混ざり合う。

40代・氷河期世代にとって、静かな退職は突然の選択ではない。

長い年月をかけて、じわじわと追い詰められた末にたどりつく場所だ。まず、それを知ってほしい。あなたは弱くなったのではない。

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氷河期世代が「静かな退職」に向かうまで——積み重なってきた理不尽

40代・氷河期世代が静かな退職を選ぶのは、今の職場だけの問題ではない。就職活動の時点から続いてきた、長年の理不尽の蓄積だ。

就職氷河期世代とは、1993年から2004年頃に卒業し就職活動をした世代を指す(内閣府定義)。2026年現在、30代後半から50代前半にあたり、1,700万人以上いるとされる。

この世代が就職活動をした時期、大卒の有効求人倍率は0.67倍まで落ち込んだ年もあった。10人が応募して採用されるのは7人以下という計算だ。懸命に準備しても、選ばれない。それが当たり前だった時代を、この世代は生きてきた。

ようやく入った職場でも、苦労が続いた。ヨーヨー型キャリアと呼ばれる、「正社員になれたと思ったら非正規に戻る」という不安定な働き方を繰り返した人も少なくない(労働政策研究・研修機構, 2024)。

そして40代になった今、賃金の格差が数字として現れている。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査をもとにした分析によると、2019年から2024年にかけて20代の給与は約10%増えた一方、40〜44歳の増加率はわずか0.1%にとどまっている(第一生命経済研究所, 2025)。

若い頃に不本意な選択を強いられ、今になっても報われない。

そういう経験が積み重なったとき、人は「もうここではがんばらない」と静かに決める。それが40代の静かな退職の実態だ。

マイナビの調査(2025年)では、静かな退職をしている40代の73.5%が「今後も続けたい」と答えている。

これは全年代で最も高い数字だ。やめたくてもやめられない事情がある一方で、「ここではもう消耗しない」という意志が固まっている状態とも読める。

→ 詳細は「心を壊す前に「賢くあきらめる」——学習された無力感をリセットする、健全な離脱のすすめ」で

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自己肯定感が削られていくメカニズム——なぜ40代は特に傷つきやすいのか

40代は、自己肯定感が最も削られやすい年代だ。それは性格の問題ではなく、置かれている状況の問題だ。

残業後のオフィスで一人画面を見つめる40代。氷河期世代の静かな疲弊と、静かな退職を選ぶまでの積み重ねを象徴する場面。

自己肯定感とは「自分はここにいていい」「自分には価値がある」という感覚のことだ。

これが長年にわたって削られると、人は「何をしても無駄だ」と感じるようになる。心理学ではこれを「学習性無力感」と呼ぶ。

30代が終わりに差し掛かる頃になると、「家族を持つには今の年齢がギリギリ」で焦ることが多くないだろうか? この時期の焦りはメンタルを削り、40代になってからはそれが「あきらめ」に変化する経験をした方は少なくないはずだ。

焦りとあきらめ。削られたメンタルは「学習性無力感」に無意識のうちに埋没していく。

40代が特にこの罠にはまりやすいのには、理由がある。

① キャリアの折り返し点で「このままでいいのか」という問いが生まれる

20代・30代は「まだ挽回できる」という感覚がある。しかし40代になると、「このまま定年まで行くのか」という現実が迫ってくる。そこで初めて、今の状況を直視せざるを得なくなる。

② 上からも下からも圧力を受ける

上司からは「もっとやれ」と言われ、後輩からは追い上げられる。自分の貢献が正当に評価されない一方で、責任だけは重くなっていく。この板挟みが、じわじわとメンタルを削る。

③ 氷河期世代は「比べる対象」が多すぎる

バブル世代と比較されてきた。就職環境が整った今の若者とも比較される。最近は「人手不足」を解消するために、新卒の初任給はとんでもない額になっている。

「同じ能力でも、生まれた時代が違えば全然違う人生になっていた」という不公平感が、自己肯定感をさらに下げる。

私はカウンセラーとして、40代の相談者と話すとき、よくこの言葉を聞く。「自分が悪いのはわかっています」と。違う。あなたが悪いのではない。あなたを消耗させ続けた構造が問題だ。

→ 詳細は「仕事で削られた自尊心を取り戻す——40代からの自己効力感「デトックス」実践ガイド」で

「静かな退職」を自己肯定感を守るための盾として使う

静かな退職は、逃げではない。自己肯定感を守りながら、不条理な組織をやり過ごすための「盾」として使える。

「賢くあきらめる」という言葉がある。組織の理不尽に正面からぶつかり、メンタルを壊すことを選ぶのではなく、「生きること」を優先する選択のことだ。

うつ状態の一歩手前で踏みとどまり、崖から落ちないようにすること。それが「賢くあきらめる」の意味だ。

具体的には、以下の3つを意識することから始められる。

① 「会社への期待」の量を意図的に減らす

期待が大きいほど、裏切られたときのダメージが大きい。「この会社は変わらない」と受け入れることは、敗北ではない。現実を正確に見ることだ。期待を手放した瞬間、不思議と心が軽くなる人は多い。

② エネルギーの使い先を「自分のため」に少しずつ移す

職場に使っていたエネルギーの一部を、自分の時間・趣味・家族・副業に向ける。全部を一度に変える必要はない。1日15分だけ、仕事と関係のない自分のことを考える時間を作るだけでいい。

③ 「今の職場が全て」という錯覚から距離を置く

組織の中にいると、そこが世界の全てに見えてくる。でも実際は違う。

職場の外には、あなたを評価する場所も、必要としている人も、必ずある。その感覚を少しずつ取り戻していく作業が、自己肯定感の回復につながる。

私がパワハラ・モラハラ、仲間内の職場にいた時、常に自分に言い聞かせていたのは

今がすべてではない

という一言だった。

40代・氷河期世代へ——カウンセラーからのメッセージ

就職活動で散々な目に遭い、職場でも理不尽を重ねてきた。それでも20年以上、なんとかやってきた。

そのことを、まず認めてほしい。あなたが変われなかったのではない。変わることを許してくれない環境の中で、ここまで踏みとどまってきたのだ。

「静かな退職」を選んだとしても、それはあなたの負けではない。

消耗を止め、自分を守り、次の一手を考えるための時間を作ること——それは、十分に賢い選択だ。

状態やること目的
今すぐできること会社への期待を意図的に減らす心の負荷を軽くする
1週間以内1日15分、自分のための時間を作る自己効力感の回復
1ヶ月以内職場の外に「居場所」を一つ作る世界を広げる

急がなくていい。ゆっくりでいい。ただ、自分を削り続けることだけはやめてほしい。

さんざん削られたメンタル。あきらめの気持ちは強いけれど、心のどこかに

「このままでは終われない」

そんな思いをかかえながら、それでも職場にしがみつく。これがかつての私の姿だった。ある時期から「静かな退職」を選んだのは、当然のことだったと振り返る。

まとめ

  • 就職氷河期世代(現在の40代〜50代前半)は、就職活動から今に至るまで長年の理不尽を積み重ねてきた
  • 40代の賃金上昇率は20代の100分の1以下という格差が数字で示されている(第一生命経済研究所, 2025)
  • 40代の静かな退職継続希望率は73.5%と全年代最高(マイナビ, 2025)
  • 自己肯定感を守るために「期待を減らす」「エネルギーの使い先を変える」「職場以外の世界を持つ」という3つのアプローチが有効だ
  • 静かな退職は逃げではなく、自分を守るための「盾」として使える

40代・氷河期世代が自分を取り戻すためのロードマップ全体はこちら。

「静かな退職」というあきらめのススメ:本当の自分を取り戻すためのロードマップ

自己肯定感を具体的に回復させる方法はこちら。

心を壊す前に「賢くあきらめる」——学習された無力感をリセットする、健全な離脱のすすめ

仕事で削られた自尊心を取り戻す——40代からの自己効力感「デトックス」実践ガイド

FAQ よくある質問

Q1. 40代が「静かな退職」を選ぶのは、若い世代と理由が違いますか?

違う。20代・30代は「そもそも会社に期待していない」という内発的な価値観が背景にあることが多い。一方40代、特に就職氷河期世代は、就職活動からの長年の理不尽が積み重なった末の、消耗しきった結果として静かな退職に至るケースが多い。怒りや諦めより「もう疲れた」という感覚が近い。

Q2. 氷河期世代はなぜ給与が上がりにくいのですか?

厚生労働省の賃金構造基本統計調査をもとにした分析では、2019年から2024年にかけて20代の給与が約10%増えた一方、40〜44歳の増加率はわずか0.1%にとどまっている。バブル世代の人件費が先に積み上がった分のしわ寄せが、氷河期世代に集中している構造が背景にある。

Q3. 自己肯定感が下がっているかどうか、どうすればわかりますか?

「自分が悪いのはわかっている」と口癖のように言う、提案する前から「どうせ無駄だ」と感じる、何かを達成しても素直に喜べない——こういった状態が続いているなら、自己肯定感が削られているサインだ。

これは性格の問題ではなく、長期間にわたって「頑張っても変わらない」経験を重ねた結果として起きる、心理的な反応だ。

Q4. 「期待を手放す」とはどういうことですか?あきらめとは違いますか?

あきらめは「もう何もしない」こと。期待を手放すとは「この組織には変化を求めない」と決め、その分のエネルギーを自分のために使い始めることだ。

組織への期待をゼロにすることで、裏切られるダメージがなくなり、心が安定する。それは冷静な現実認識であり、次の一手を考えるための準備でもある。

Q5. 静かな退職をしながら、自己肯定感を回復できますか?

できる。静かな退職で消耗を止めることで、自分のために使えるエネルギーが生まれる。

まず1日15分だけ仕事と関係のない自分のことを考える時間を作り、小さな成功体験を積み重ねることで、「自分にもできる」という感覚が少しずつ戻ってくる。

急がなくていい。順番は「消耗を止める→自分の時間を作る→世界を広げる」だ。

Q6. 40代で静かな退職を続けていると、キャリアはどうなりますか?

静かな退職を「終点」にすると、スキルや人脈が育ちにくくなるリスクがある。

ただし「充電期間」として使い、その間に副業・スキルアップ・自己分析を進めれば、次のステージへの足場になる。

40代はまだ動ける。職場の外に自分の価値を育てる時間として使うことが、長期的には有効だ。

Q7. 転職か静かな退職か、どちらを選ぶべきですか?

感情的に消耗しているうちに転職活動を始めると、同じ環境を繰り返しやすい。

まず静かな退職で心のゆとりを取り戻し、冷静に自己分析できるようになってから動くのが理想だ。

40代の転職は「何ができるか」ではなく「何をしたいか」を明確にすることが先決で、その整理に静かな退職期間を使うのが賢い順序といえる。

参照したリンク先リスト

就職氷河期世代とは?現在の年齢と当時の労働市場、現在の支援制度について/マイナビキャリアリサーチLab

就職氷河期世代のキャリアと意識(資料シリーズNo.272)/労働政策研究・研修機構(JILPT)

JILPTリサーチアイ第89回「就職氷河期世代(ミドル世代)の働き方と支援ニーズ」/JILPT

就職氷河期世代の就業等の動向と支援の今後の方向性について/内閣官房就職氷河期世代支援推進室(2024年12月)

初任給アップでも世代間格差は残る~給与は増えにくい氷河期世代~/第一生命経済研究所

正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)/マイナビキャリアリサーチLab

50歳代を迎える就職氷河期世代の”いま”と”これから”/日本総合研究所