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【語源で覚える】pay|「払う」と「平和」は、同じ語から出ている

著者情報
【著者:鈴木一世(イッセー)】

現役大学教員・カウンセラー。
  専門の「第二言語習得理論」と「心理学」に基づき、氷河期世代・非正規雇用・転職に関わるリスキリング戦略をデータで解説。挫折しそうな人のための、脳と心の攻略ガイド。  

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「PayPay」「Apple Pay」「PayPal」・・・いつのまにか、日本語の会話にも「ペイ」が普通に混ざるようになりました。

pay は中学で習う、知っているつもりの一語です。ところが、この語をさかのぼっていくと、思いがけない単語にぶつかります。peace(平和) です。

綴りが似ているだけの他人ではありません。pay と peace は、同じラテン語 pax(平和) から枝分かれした、正真正銘の親戚です。しかも間には pacifist(平和主義者)やパシフィック(太平洋)まで並んでいます。

お金を払うことが、なぜ「平和」なのか。そこがこの記事の入り口です。

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pay の意味の中心|「相手を平和な状態にする」

pay は接頭辞や接尾辞で切り分けるタイプの単語ではありません。語そのものが、ラテン語からまるごと流れてきています。

pax(平和)→ pacare(なだめる・満足させる)→ 古フランス語 paier → pay

意味の中心は、「相手を平和な状態にする」。

借りたお金を返すと、貸した相手は静かになります。請求書の支払いを済ませると、督促が止まります。つまり支払いとは、相手を落ち着かせる行為・・・ラテン語の pacare は、中世ラテン語で「債権者を満足させる」という意味で使われるようになりました。そこから「支払う」という今の意味が育っています。

ここが日本語との感覚のズレです。日本語の「払う」は、ほこりを払う・袖を払うのように「振り払って遠ざける」イメージが元にあります。

英語の pay は逆で、相手に差し出して鎮める側の発想です。pay attention(注意を払う)が「注意を向ける」になるのも、「振り払う」ではなく「差し出す」だと考えると、すっと通ります。

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pay の基本の意味と使い方

pay は動詞で「支払う」、名詞で「給料・報酬」を表します。

  • pay the bill(請求書を支払う)
  • pay for the coffee(コーヒー代を払う)
  • monthly pay(月給)
  • The job pays well.(その仕事は実入りがいい)

つまずきやすいのが前置詞です。pay のすぐ後ろには「渡す相手」か「金額」が来て、「買うモノ」には for が要ります。

  • pay the driver(運転手に払う)/pay 2,000 yen(2,000円払う)
  • pay for the ticket(チケット代を払う)

また、pay は「代償を払う」方向にも伸びます。You’ll pay for this.(これは高くつくぞ)は14世紀末から記録のある使い方で、「罰を受ける」の意味です。

さらに1812年ごろからは「採算が取れる・報われる」という自動詞の用法も定着しました。Patience pays.(辛抱は報われる)のような言い方がこれです。

使い分け|pay と payment、そして payable

語品詞使いどころ
pay動詞/名詞「払う」という行為そのもの。名詞では「給料」
payment名詞一回ごとの支払い、または支払われた金額
payable形容詞「支払われるべき」「支払期限が来ている」
  • Please make a payment by Friday.(金曜までにお支払いください)
  • The balance is payable within 30 days.(残額は30日以内にお支払いいただきます)

経理でおなじみの accounts payable(買掛金) も、この payable です。「こちらが支払うべき勘定」という意味で、逆に「受け取るべき勘定」は accounts receivable(売掛金)。英文の決算書を読むときに必ず出てくるペアです。

「平和」でつながる単語ネットワーク

pax(平和)をたどると、pay とは似ても似つかない顔ぶれが並びます。

単語意味つながり
peace平和pax がフランス語 pais を経て英語へ
pacifyなだめる、鎮めるpax + facere(作る)=平和を作る
pacific平和的な、穏やかな同じく pacificus から
pacifist平和主義者pacific + -ist
appeaseなだめる、譲歩するa(〜へ)+ pais =平和へもっていく
pact協定、条約pacisci(約束する)=結びつけて固める
pax和平の挨拶ラテン語そのまま。ローマの平和の女神の名でもある

太平洋(the Pacific Ocean)も、この一族です。 1519年、マゼランがこの海に出たとき、荒れた大西洋にくらべて穏やかだったことから Mare Pacificum(静かな海)と名づけました。英語で Pacific Ocean と呼ばれるようになるのは1660年からです。

ちなみに pacifism(平和主義)は意外と新しい語で、1901年のフランス語 pacifisme が1902年に英語へ入ったもの。反戦作家エミール・アルノーの造語とされています。pay が13世紀、peace が12世紀半ばですから、同じ家の中でも700年ほど後輩にあたります。

さらに奥|「留める」という、もっと古い意味の中心

pax をもう一段さかのぼると、印欧祖語の *pag-(留める・くくりつける) にたどり着きます。平和とは、約束で互いを「結びつけた」状態・・・という発想です。

ここまで下りると、一族は一気に広がります。

単語意味つながり
impact衝撃、影響in(中へ)+ pangere(打ち込む)
pageページpagina=留めつけたパピルスの一片
pagan異教徒pagus=境界標で区切られた地区(=田舎)
peasant農民同じく pagus から
pale杭、境界palus(杭)。impale(串刺しにする)も同系
paletteパレットpala(スコップ)の小さい形
propagate繁殖させる、広めるpro(前へ)+ pag- =枝を土に留めて増やす

いちばん意外なのは travel(旅行する)です。

travel はもともと travail(苦役)と同じ語で、その奥には「三本の杭」を意味するとされるラテン語 trepalium(拷問具)があり、その palus が *pag- の系統とされています。中世の旅は、それほどの苦行だったということです。ただしこの trepalium 説は etymonline も「そう言われている」と留保をつけており、もとの発想ははっきりしていません。断定はできない話として受け取ってください。

派生語 Word Family|pay から広がる12語

pay は接頭辞・接尾辞との相性がよく、ビジネス語彙がまとまって生まれています。

単語品詞意味ひとこと
payment名詞支払い、支払金14世紀末から
payable形容詞支払うべきaccounts payable=買掛金
payer名詞支払う人14世紀末は「賃金を払う人」の意味
taxpayer名詞納税者tax + payer。1816年
payroll名詞給与支払名簿、人件費1740年。「払う人のリスト(roll)」
paycheck名詞給料(の小切手)1894年
payout名詞支払額、払い戻し1904年。もとは採算の取れる油井のこと
payoff名詞清算、見返り1905年にギャンブルの配当として登場
payback名詞投資回収、仕返し1946年。「報復」の意味は1957年から
repay動詞返済する、報いるre(返して)+ pay。15世紀半ば
repayment名詞返済repay の名詞形
overpay動詞払いすぎる1600年ごろ
prepay動詞前払いする1839年。もとは郵便料金の話
prepayment名詞前払い、繰上返済prepay の名詞形

日本語でおなじみの「プリペイド(prepaid)」も、この prepay の過去分詞です。プリペイドカードは「先に払い終えたカード」。英語ではもともと、切手を貼って郵便料金を前納することを指していました。

参考までに、反対側の underpay(安く払いすぎる)は1817年の語です。

注意点|password は pay の仲間ではありません

payable・payroll と並んで覚えがちですが、password は pass + word です。pass はラテン語 passus(歩み)から来ていて、pace(歩調)や passport と同じ系統・・・pay とも peace とも血のつながりはありません。1798年に「味方と敵を見分けるための合言葉」として記録されたのが初出です。見た目の「pa-」に引っぱられないよう、ここだけは切り離して覚えてください。

もう一つ、船の継ぎ目にタールを塗ることを意味する pay という動詞もありますが、こちらは17世紀初めにラテン語 picare(ピッチを塗る)から入った同じ綴りの別語です。

TOEIC・英検での出題傾向

pay とその一族は、TOEICでは避けて通れない語群です。Part 5では payment と payable、pay と pay for の使い分けが問われ、Part 7では請求書・経理メールの定番語として出ます。

よく出る形をまとめておきます。

  • Payment is due by the end of the month.(支払期限は月末です)
  • accounts payable department(買掛金担当部署)
  • payroll department/payroll system(給与計算部門・システム)
  • pay a deposit(手付金を払う)
  • overdue payment(支払い遅延)
  • pay raise(昇給。英ではpay rise)

英検では3級から pay そのものが出ますが、準1級以上になると repay・prepayment・taxpayer のような派生語が読解に入ってきます。pay を軸に一族ごと押さえておくと、負担がまとめて減る語です。

英文で確認|翻訳練習10問

英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。

  1. I will pay for the coffee today.
  2. She paid the bill without saying a word.
  3. Hard work does not always pay right away.
  4. You do not have to pay for one mistake forever.
  5. The company pays its staff on the last Friday of the month.
  6. Pay attention to the small signs of progress.
  7. Your patience will pay off one day.
  8. He offered to pay me back the next week.
  9. Kindness costs nothing, but it pays a lot.
  10. Whatever you pay attention to will grow.

語源メモ|「なだめる」が「支払う」になるまで

pay が英語に入ったのは1200年ごろ。このときの意味は 「なだめる、鎮める、満足させる」 で、まだ「支払う」ではありませんでした。「代金を払う」の意味は中世ラテン語で育ち、英語では13世紀初めに現れます。

おもしろいのは、その後の入れ替わりです。「なだめる」のほうの意味は、1500年までに英語から消えてしまいました。 今の英語話者にとって pay は完全にお金の語で、平和の匂いは残っていません。

名詞の pay も同じです。1300年ごろの paie は「満足、好み」の意味で、中英語では my pay が「私の気に入り」、God’s pay が「神の御心」を指していました。給料という意味になるのは、そのあとです。

その後の広がりを年代で並べると、こうなります。

  • 14世紀末・・・「罰を受ける、代償を払う」(You’ll pay for this.)
  • 1580年代・・・「差し出す」(pay attention/pay respects/pay a compliment)
  • 1812年ごろ・・・「採算が取れる、報われる」
  • 1911年・・・pay up が「全額きちんと払う」の意味に(もとは15世紀半ばの「差額を埋める」)
  • 1957年・・・pay television(有料放送)

pacare の奥にある pax は、さらに印欧祖語 *pag-(留める・くくりつける) につながります。平和とは、約束で互いを縛り合った状態・・・という、かなり現実的な発想です。pact(協定)が同じ家から出ているのは、そう考えると当然のことでしょう。

なお、*pag- の系統とされる語の一部(travel/travail、patio など)は、研究者のあいだでも推定を含む扱いです。確定した事実ではない点だけ添えておきます。

まとめ

pay の意味の中心は「支払う」ではなく、「相手を平和な状態にする」。

  • pax(平和)・・・peace/pacify/pacific/pacifist/appease/pact の一族へ
  • pay(支払う)・・・payment/payable/payroll/paycheck/repay/prepay の一族へ
  • 奥にあるのは *pag-「留める」。pact も page も pagan も travel も、この家から

支払いとは、相手を静かにさせること。そう考えると、請求書を片づけたあとのあの感じにも、ちゃんと名前があったのだと分かります。

pay の語源ワードマップ。中心は pay(=相手を平和な状態にする)で、ラテン語 pacare(なだめる)、さらに pax(平和)にさかのぼる構成。語源・中心、pax(平和)系(peace / pacify / pacific / pacifist / appease / pact)、pay(支払う)系(payment / payable / payroll / paycheck / repay / prepay)、覚え方のヒント(「〇〇ペイ」の pay = ピースと同じ家)の4クラスタに整理した図。
  • 語源・中心:pay ← pacare(平和にする)← pax(平和)=「相手を鎮める」
  • 覚え方のヒント:「〇〇ペイ」の pay = ピース(peace)と同じ家
  • pax(平和)一族:peace/pacify/pacific/pacifist/appease/pact
  • pay(支払う)一族:payment/payable/payroll/paycheck/repay/prepay

NGSL(New General Service List)収録語

この単語は New General Service List(NGSL) に収録されています。NGSL は、大規模な英語コーパスから選ばれた約2,800語の基礎語彙リストで、これらを覚えるだけで一般的な英文の約92%をカバーできます。日常でも英文読解でも、何度も出会う基本の一語です。
出典:New General Service List Project

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翻訳練習の解答

  1. 今日はコーヒー代を私が払います。
  2. 彼女は何も言わずに勘定を済ませた。
  3. 努力は、いつもすぐに報われるとはかぎらない。
  4. ひとつの失敗の代償を、ずっと払い続ける必要はない。
  5. その会社は毎月最終金曜日に給料を払う。
  6. 小さな前進のしるしに目を向けてみてください。
  7. あなたの辛抱は、いつかきっと報われる。
  8. 彼は翌週に返すと申し出てくれた。
  9. 親切にはお金がかからない。それでいて、大きな見返りがある。
  10. あなたが注意を向けたものが、育っていく。