「PayPay」「Apple Pay」「PayPal」・・・いつのまにか、日本語の会話にも「ペイ」が普通に混ざるようになりました。
pay は中学で習う、知っているつもりの一語です。ところが、この語をさかのぼっていくと、思いがけない単語にぶつかります。peace(平和) です。
綴りが似ているだけの他人ではありません。pay と peace は、同じラテン語 pax(平和) から枝分かれした、正真正銘の親戚です。しかも間には pacifist(平和主義者)やパシフィック(太平洋)まで並んでいます。
お金を払うことが、なぜ「平和」なのか。そこがこの記事の入り口です。
pay の意味の中心|「相手を平和な状態にする」
pay は接頭辞や接尾辞で切り分けるタイプの単語ではありません。語そのものが、ラテン語からまるごと流れてきています。
pax(平和)→ pacare(なだめる・満足させる)→ 古フランス語 paier → pay
意味の中心は、「相手を平和な状態にする」。
借りたお金を返すと、貸した相手は静かになります。請求書の支払いを済ませると、督促が止まります。つまり支払いとは、相手を落ち着かせる行為・・・ラテン語の pacare は、中世ラテン語で「債権者を満足させる」という意味で使われるようになりました。そこから「支払う」という今の意味が育っています。
ここが日本語との感覚のズレです。日本語の「払う」は、ほこりを払う・袖を払うのように「振り払って遠ざける」イメージが元にあります。
英語の pay は逆で、相手に差し出して鎮める側の発想です。pay attention(注意を払う)が「注意を向ける」になるのも、「振り払う」ではなく「差し出す」だと考えると、すっと通ります。
pay の基本の意味と使い方
pay は動詞で「支払う」、名詞で「給料・報酬」を表します。
- pay the bill(請求書を支払う)
- pay for the coffee(コーヒー代を払う)
- monthly pay(月給)
- The job pays well.(その仕事は実入りがいい)
つまずきやすいのが前置詞です。pay のすぐ後ろには「渡す相手」か「金額」が来て、「買うモノ」には for が要ります。
- pay the driver(運転手に払う)/pay 2,000 yen(2,000円払う)
- pay for the ticket(チケット代を払う)
また、pay は「代償を払う」方向にも伸びます。You’ll pay for this.(これは高くつくぞ)は14世紀末から記録のある使い方で、「罰を受ける」の意味です。
さらに1812年ごろからは「採算が取れる・報われる」という自動詞の用法も定着しました。Patience pays.(辛抱は報われる)のような言い方がこれです。
使い分け|pay と payment、そして payable
| 語 | 品詞 | 使いどころ |
|---|---|---|
| pay | 動詞/名詞 | 「払う」という行為そのもの。名詞では「給料」 |
| payment | 名詞 | 一回ごとの支払い、または支払われた金額 |
| payable | 形容詞 | 「支払われるべき」「支払期限が来ている」 |
- Please make a payment by Friday.(金曜までにお支払いください)
- The balance is payable within 30 days.(残額は30日以内にお支払いいただきます)
経理でおなじみの accounts payable(買掛金) も、この payable です。「こちらが支払うべき勘定」という意味で、逆に「受け取るべき勘定」は accounts receivable(売掛金)。英文の決算書を読むときに必ず出てくるペアです。
「平和」でつながる単語ネットワーク
pax(平和)をたどると、pay とは似ても似つかない顔ぶれが並びます。
| 単語 | 意味 | つながり |
|---|---|---|
| peace | 平和 | pax がフランス語 pais を経て英語へ |
| pacify | なだめる、鎮める | pax + facere(作る)=平和を作る |
| pacific | 平和的な、穏やかな | 同じく pacificus から |
| pacifist | 平和主義者 | pacific + -ist |
| appease | なだめる、譲歩する | a(〜へ)+ pais =平和へもっていく |
| pact | 協定、条約 | pacisci(約束する)=結びつけて固める |
| pax | 和平の挨拶 | ラテン語そのまま。ローマの平和の女神の名でもある |
太平洋(the Pacific Ocean)も、この一族です。 1519年、マゼランがこの海に出たとき、荒れた大西洋にくらべて穏やかだったことから Mare Pacificum(静かな海)と名づけました。英語で Pacific Ocean と呼ばれるようになるのは1660年からです。
ちなみに pacifism(平和主義)は意外と新しい語で、1901年のフランス語 pacifisme が1902年に英語へ入ったもの。反戦作家エミール・アルノーの造語とされています。pay が13世紀、peace が12世紀半ばですから、同じ家の中でも700年ほど後輩にあたります。
さらに奥|「留める」という、もっと古い意味の中心
pax をもう一段さかのぼると、印欧祖語の *pag-(留める・くくりつける) にたどり着きます。平和とは、約束で互いを「結びつけた」状態・・・という発想です。
ここまで下りると、一族は一気に広がります。
| 単語 | 意味 | つながり |
|---|---|---|
| impact | 衝撃、影響 | in(中へ)+ pangere(打ち込む) |
| page | ページ | pagina=留めつけたパピルスの一片 |
| pagan | 異教徒 | pagus=境界標で区切られた地区(=田舎) |
| peasant | 農民 | 同じく pagus から |
| pale | 杭、境界 | palus(杭)。impale(串刺しにする)も同系 |
| palette | パレット | pala(スコップ)の小さい形 |
| propagate | 繁殖させる、広める | pro(前へ)+ pag- =枝を土に留めて増やす |
いちばん意外なのは travel(旅行する)です。
travel はもともと travail(苦役)と同じ語で、その奥には「三本の杭」を意味するとされるラテン語 trepalium(拷問具)があり、その palus が *pag- の系統とされています。中世の旅は、それほどの苦行だったということです。ただしこの trepalium 説は etymonline も「そう言われている」と留保をつけており、もとの発想ははっきりしていません。断定はできない話として受け取ってください。
派生語 Word Family|pay から広がる12語
pay は接頭辞・接尾辞との相性がよく、ビジネス語彙がまとまって生まれています。
| 単語 | 品詞 | 意味 | ひとこと |
|---|---|---|---|
| payment | 名詞 | 支払い、支払金 | 14世紀末から |
| payable | 形容詞 | 支払うべき | accounts payable=買掛金 |
| payer | 名詞 | 支払う人 | 14世紀末は「賃金を払う人」の意味 |
| taxpayer | 名詞 | 納税者 | tax + payer。1816年 |
| payroll | 名詞 | 給与支払名簿、人件費 | 1740年。「払う人のリスト(roll)」 |
| paycheck | 名詞 | 給料(の小切手) | 1894年 |
| payout | 名詞 | 支払額、払い戻し | 1904年。もとは採算の取れる油井のこと |
| payoff | 名詞 | 清算、見返り | 1905年にギャンブルの配当として登場 |
| payback | 名詞 | 投資回収、仕返し | 1946年。「報復」の意味は1957年から |
| repay | 動詞 | 返済する、報いる | re(返して)+ pay。15世紀半ば |
| repayment | 名詞 | 返済 | repay の名詞形 |
| overpay | 動詞 | 払いすぎる | 1600年ごろ |
| prepay | 動詞 | 前払いする | 1839年。もとは郵便料金の話 |
| prepayment | 名詞 | 前払い、繰上返済 | prepay の名詞形 |
日本語でおなじみの「プリペイド(prepaid)」も、この prepay の過去分詞です。プリペイドカードは「先に払い終えたカード」。英語ではもともと、切手を貼って郵便料金を前納することを指していました。
参考までに、反対側の underpay(安く払いすぎる)は1817年の語です。
注意点|password は pay の仲間ではありません
payable・payroll と並んで覚えがちですが、password は pass + word です。pass はラテン語 passus(歩み)から来ていて、pace(歩調)や passport と同じ系統・・・pay とも peace とも血のつながりはありません。1798年に「味方と敵を見分けるための合言葉」として記録されたのが初出です。見た目の「pa-」に引っぱられないよう、ここだけは切り離して覚えてください。
もう一つ、船の継ぎ目にタールを塗ることを意味する pay という動詞もありますが、こちらは17世紀初めにラテン語 picare(ピッチを塗る)から入った同じ綴りの別語です。
TOEIC・英検での出題傾向
pay とその一族は、TOEICでは避けて通れない語群です。Part 5では payment と payable、pay と pay for の使い分けが問われ、Part 7では請求書・経理メールの定番語として出ます。
よく出る形をまとめておきます。
- Payment is due by the end of the month.(支払期限は月末です)
- accounts payable department(買掛金担当部署)
- payroll department/payroll system(給与計算部門・システム)
- pay a deposit(手付金を払う)
- overdue payment(支払い遅延)
- pay raise(昇給。英ではpay rise)
英検では3級から pay そのものが出ますが、準1級以上になると repay・prepayment・taxpayer のような派生語が読解に入ってきます。pay を軸に一族ごと押さえておくと、負担がまとめて減る語です。
英文で確認|翻訳練習10問
英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。
- I will pay for the coffee today.
- She paid the bill without saying a word.
- Hard work does not always pay right away.
- You do not have to pay for one mistake forever.
- The company pays its staff on the last Friday of the month.
- Pay attention to the small signs of progress.
- Your patience will pay off one day.
- He offered to pay me back the next week.
- Kindness costs nothing, but it pays a lot.
- Whatever you pay attention to will grow.
語源メモ|「なだめる」が「支払う」になるまで
pay が英語に入ったのは1200年ごろ。このときの意味は 「なだめる、鎮める、満足させる」 で、まだ「支払う」ではありませんでした。「代金を払う」の意味は中世ラテン語で育ち、英語では13世紀初めに現れます。
おもしろいのは、その後の入れ替わりです。「なだめる」のほうの意味は、1500年までに英語から消えてしまいました。 今の英語話者にとって pay は完全にお金の語で、平和の匂いは残っていません。
名詞の pay も同じです。1300年ごろの paie は「満足、好み」の意味で、中英語では my pay が「私の気に入り」、God’s pay が「神の御心」を指していました。給料という意味になるのは、そのあとです。
その後の広がりを年代で並べると、こうなります。
- 14世紀末・・・「罰を受ける、代償を払う」(You’ll pay for this.)
- 1580年代・・・「差し出す」(pay attention/pay respects/pay a compliment)
- 1812年ごろ・・・「採算が取れる、報われる」
- 1911年・・・pay up が「全額きちんと払う」の意味に(もとは15世紀半ばの「差額を埋める」)
- 1957年・・・pay television(有料放送)
pacare の奥にある pax は、さらに印欧祖語 *pag-(留める・くくりつける) につながります。平和とは、約束で互いを縛り合った状態・・・という、かなり現実的な発想です。pact(協定)が同じ家から出ているのは、そう考えると当然のことでしょう。
なお、*pag- の系統とされる語の一部(travel/travail、patio など)は、研究者のあいだでも推定を含む扱いです。確定した事実ではない点だけ添えておきます。
まとめ
pay の意味の中心は「支払う」ではなく、「相手を平和な状態にする」。
- pax(平和)・・・peace/pacify/pacific/pacifist/appease/pact の一族へ
- pay(支払う)・・・payment/payable/payroll/paycheck/repay/prepay の一族へ
- 奥にあるのは *pag-「留める」。pact も page も pagan も travel も、この家から
支払いとは、相手を静かにさせること。そう考えると、請求書を片づけたあとのあの感じにも、ちゃんと名前があったのだと分かります。

- 語源・中心:pay ← pacare(平和にする)← pax(平和)=「相手を鎮める」
- 覚え方のヒント:「〇〇ペイ」の pay = ピース(peace)と同じ家
- pax(平和)一族:peace/pacify/pacific/pacifist/appease/pact
- pay(支払う)一族:payment/payable/payroll/paycheck/repay/prepay
NGSL(New General Service List)収録語
この単語は New General Service List(NGSL) に収録されています。NGSL は、大規模な英語コーパスから選ばれた約2,800語の基礎語彙リストで、これらを覚えるだけで一般的な英文の約92%をカバーできます。日常でも英文読解でも、何度も出会う基本の一語です。
出典:New General Service List Project
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翻訳練習の解答
- 今日はコーヒー代を私が払います。
- 彼女は何も言わずに勘定を済ませた。
- 努力は、いつもすぐに報われるとはかぎらない。
- ひとつの失敗の代償を、ずっと払い続ける必要はない。
- その会社は毎月最終金曜日に給料を払う。
- 小さな前進のしるしに目を向けてみてください。
- あなたの辛抱は、いつかきっと報われる。
- 彼は翌週に返すと申し出てくれた。
- 親切にはお金がかからない。それでいて、大きな見返りがある。
- あなたが注意を向けたものが、育っていく。


