✅ この記事を読むとわかること
- 『アーヤと魔女』がジブリ初の3DCGアニメである意味
- 「CGはジブリらしくない」と感じる視聴者の違和感の正体
- 手描きジブリ作品との決定的な違い
- 海外と日本での評価の差
- 今後のジブリ作品における技術的・表現的課題とは?
はじめに|『アーヤと魔女』とは何だったのか?
スタジオジブリ初の3DCGアニメーション『アーヤと魔女』は、2020年にNHK総合で放送され、その後Netflixでも配信された作品です。
原作は『ハウルの動く城』と同じくダイアナ・ウィン・ジョーンズによるファンタジー小説。監督は宮崎吾朗氏が務めました。
本作は、従来の“手描きアニメーション”の印象が強いジブリにとって、大きな転換点といえる試みでした。
しかし、公開当初から視聴者の間で「CGに違和感を覚える」「キャラクターの動きが不自然」といった声が多く見られました。
ではなぜ、そのような感想が広まったのでしょうか?
本記事では、“なぜ違和感があるのか”という視点から、アニメ表現とCG技術の関係を深掘りしていきます。
なぜ3DCGなのか?ジブリの新たな挑戦

宮崎吾朗監督は『アーヤと魔女』の制作にあたり、「今後のアニメ制作体制を考えるうえで、3DCGは避けて通れない」と語っています。背景には以下のような理由があると考えられます。
- 少人数での制作体制への移行(セルアニメよりも作業の効率化が図れる)
- 世界市場を見据えたデジタル対応
- 後進への技術的な布石
ジブリ作品では、『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』でも一部にCG技術は使われていましたが、フル3DCGは本作が初となります。そのため、「ジブリらしさ」と「3DCG表現」が真正面からぶつかる構造となったのです。
視聴者が感じた“違和感”の正体
視聴者が『アーヤと魔女』に対して抱いた違和感の多くは、以下のような点に集中しています。
🔸 キャラクターの表情が硬い
3DCG特有の“顔の筋肉の動き”がリアルになりきらず、キャラクターの感情が伝わりにくい印象を与えました。
🔸 動きがぎこちない
とくに人間のキャラクターが歩いたり振り返ったりする動作が、滑らかさに欠けて見えるといった声が多数あります。
🔸 ジブリ特有の“余白”が感じられない
手描きアニメにある「余韻」「間」「視線の動き」などが削がれてしまい、テンポ感や没入感に影響した可能性があります。
これらは単に「CGが悪い」という話ではなく、「ジブリ的表現」にCGがまだ馴染んでいない段階だったと見ることができます。
3|手描きジブリ作品との決定的な違い
これまでのジブリ映画には、手描きならではの豊かな演技表現がありました。たとえば:
- キャラクターのわずかな目の動き
- 背景と人物の一体感
- 光と影の繊細な描写
これに対し『アーヤと魔女』では、質感や空間処理などは向上している一方で、表情・呼吸・間といった「アニメ的リアリズム」が弱くなったと評価されています。
これは、「3DCGの完成度」ではなく「アニメとしての感情伝達」の違いに起因していると言えるでしょう。
4|海外と日本での評価の違いとレビュー引用
意外にも、海外の一部視聴者からは肯定的な意見もありました。
✅ 海外では:
- 「欧米のCGアニメに近づいた」
- 「背景が美しい」「動きがユニーク」
❌ 日本では:
- 「ジブリらしくない」
- 「キャラが可愛くない」「不気味さがある」
この違いは、アニメーションに対する文化的な受容の差にもとづくもので、手描きアニメに強いこだわりを持つ日本と、CGアニメに慣れている海外とのギャップを反映しています。
🌍 海外レビュー引用
IndieWire(否定的レビュー)
“While Earwig and the Witch is far from the ugliest film of its kind, there’s something uniquely perverse about seeing Ghibli’s signature aesthetic suffocated inside a plastic coffin…”
→ 『アーヤと魔女』は決して最も醜い作品ではないが、ジブリ独特の美的感覚がプラスチックの棺に封じ込められ、その輝きを奪われている。Vox(中立的レビュー)
“There are some moments early on when there are still shots of nature…They feel like pale imitations from a director who knows what Ghibli films do, but not why…”
→ ジブリっぽいカメラワークはあるが、それらは全体のムードと繋がらない。なぜそうするのかを理解していないように見える。shuffleonline(肯定的レビュー)
“Although flawed, ‘Earwig and the Witch’ is a wholesome return by Studio Ghibli…the magic of it all is enough to fill the soul with joy.”
→ 欠点はあるが、『アーヤと魔女』はジブリの健全な帰還だ。魔法のような雰囲気で心を喜びで満たしてくれる。
今後のジブリ作品と3DCGの共存は可能か?
『アーヤと魔女』は、ジブリにとって重要な実験作でした。課題は多くありましたが、それゆえに見えてきた“改善の余地”も明確です。
今後、3DCGの技術と「ジブリ的感性」を融合させた表現が可能になれば、以下のような新しい展開が期待できます。
- 感情表現に特化したモーションキャプチャとの融合
- 3DCGと手描き風レンダリングの併用
- 新世代アニメーターの表現力を活かした演出
宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』では再び手描きに回帰しましたが、ジブリが3DCGを完全に手放すことはないでしょう。むしろこの分野での進化が、未来の“新しいジブリらしさ”を築く鍵になるかもしれません。
まとめ|アーヤと魔女は“失敗作”ではない
『アーヤと魔女』は賛否両論を巻き起こしましたが、それは「ジブリらしさ」と「表現手法の進化」がぶつかりあった結果です。
技術的にも表現的にも、まだ道半ばではありますが、その挑戦の意義は大きく、今後のジブリ作品がどう進化していくかを占ううえで重要なターニングポイントとなるでしょう。