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「静かな退職」は海外でも当たり前——米国・中国・韓国の事例から見る、世界に広がる潮流

著者情報
【著者:鈴木一世(イッセー)】

現役大学教員・カウンセラー。
  専門の「第二言語習得理論」と「心理学」に基づき、氷河期世代・非正規雇用・転職に関わるリスキリング戦略をデータで解説。挫折しそうな人のための、脳と心の攻略ガイド。  

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「静かな退職」は日本だけの現象ではない。

アメリカで生まれ、中国・韓国・ヨーロッパへと広がった世界的な潮流だ。 国は違っても、「がんばっても報われない」という感覚は同じだった。

この記事では、各国の事例から静かな退職の本質を読み解く。

「静かな退職なんて、今どきの若者の甘えだ」という声を聞くことがある。

でも、それが世界62カ国で同時多発的に起きているとしたら、話は変わってくる。

アメリカで「Quiet Quitting」として爆発的に広まり、中国では「躺平(タンピン)」として社会問題になり、韓国では職場人の70%が「給与分だけ働けばよい」と答えた。

ヨーロッパでは従業員の72%が静かな退職状態にある。

これは特定の国の文化や世代の問題ではない。世界が同時に、同じことを感じているということだ。

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アメリカ——「Quiet Quitting」の誕生と世界への拡散

静かな退職は2022年、アメリカのTikTokから始まった。でも実態は、アメリカが「当たり前」に近い側の国だという皮肉がある。

2022年、ニューヨーク在住の24歳エンジニア、ザイド・カンがTikTokに投稿した。

「静かな退職は仕事をやめることじゃない。仕事が自分の人生を乗っ取らないようにすることだ」

——その言葉は世界中に広がった。

しかし皮肉なのは、アメリカは静かな退職を「生んだ国」でありながら、世界の中では相対的に仕事にやりがいを感じている人が多い側に属するという事実だ。

Gallupの2024年調査によると、アメリカで仕事にやりがいを感じている人の割合は33%。世界平均23%を大きく上回る。

では、なぜアメリカで「Quiet Quitting」が話題になったのか。

「ハッスルカルチャー」——24時間365日、仕事に全力を注ぐことを美徳とする文化——への反発だ。

コロナ禍を経て、人々が「仕事だけが人生ではない」と気づき始めた。その感覚に言葉を与えたのが「Quiet Quitting」だった。

アメリカの静かな退職が示すもの

アメリカの事例が重要なのは、「仕事へのやりがいが高い国でさえ、静かな退職は起きる」という点だ。

問題は意欲の高低ではなく、「仕事と人生のバランス」という価値観の変化にある。

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中国・韓国——アジアの「静かな退職」はより深刻だ

中国の「躺平(タンピン)」と韓国の「조용한 사직(チョヨンハン サジク)」は、静かな退職より一歩踏み込んだ社会への異議申し立てだ。

アメリカ・中国・韓国それぞれの職場で、静かに距離を置く人々。国境を越えて広がる「静かな退職」という世界的潮流を象徴する場面。

中国:躺平(タンピン)——「寝そべり」という抵抗

2021年4月、中国のSNSに「寝そべりは正義だ」という投稿が拡散した。躺平(タンピン)とは文字通り「寝そべる」こと。

「家を買わない、車を買わない、恋愛しない、結婚しない、子供を作らない、消費は最低限」という生き方だ。

背景にあるのは「996」と呼ばれる過酷な労働文化だ。朝9時から夜9時まで週6日、つまり1日12時間・週72時間働くことが当たり前とされてきた。

中国人民大学が2023年に約6万人を対象に行った調査では、若い男性の14.7%、若い女性の10.7%が「寝そべっている、または寝そべりたい」と回答した。

さらに衝撃的なのは、2023年8月に中国当局が若者の失業率(当時21.3%)の公表を停止したことだ。

都合の悪い数字を隠すという行為が、むしろ躺平(タンピン)という現象の深刻さを物語っている。

日本の静かな退職との違いは、躺平が「職場だけでなく、社会システム全体への異議申し立て」である点だ。結婚・出産・消費まで拒絶するという、より根深い諦念がある。

韓国:「給与分だけ働けばよい」が70%

韓国でも「조용한 사직(チョヨンハン サジク)」として静かな退職が2023年のトレンドとなった。

採用プラットフォーム「サラミン」が職場人3,923名を対象に行った調査では、回答者の70%が「給与分だけ働けばよい」と答えた。

韓国には「소울리스좌(ソウルリスチャ)」という言葉もある。

魂のない人」という意味で、職場の理不尽に対して「魂を守るために魂のない姿で働く」という体念戦略を指す。これはアルバイト層から始まり、会社員版に発展したのが韓国版静かな退職だ。

日本との共通点は多い。年功序列の残存、評価制度への不満、長時間労働文化——構造的な問題が似ているからこそ、似た現象が起きている。

→ 詳細は「「静かな退職」が日本で広がる原因——生産性低下と「報われない」職場の正体」で

ヨーロッパ・世界——数字が示す「当たり前」の現実

ヨーロッパでは従業員の72%が静かな退職状態にある。世界規模で見ると、静かな退職は「例外」ではなく「当たり前」だ。

Gallupの2024年調査が示す数字は衝撃的だ。

国・地域仕事にやりがいを感じている割合静かな退職状態の割合
世界平均23%約62%
アメリカ33%約50%
日本6%(世界最低)約70%以上
イギリス10%約90%
ヨーロッパ全体13%約72%

出典:Gallup「State of the Global Workplace 2024」

特に注目したいのはイギリスだ。従業員の90%が職場に熱意を持てない状態にあり、40%が強い日常的ストレスを、27%が日常的な悲しみを感じていると報告した。

そして日本は、このリストの中で「仕事にやりがいを感じている人がわずか6%」という突出した位置にいる。

なぜ日本だけがここまで仕事にやりがいを感じる人の割合が低いのか

Gallupは日本の低さの原因として、

「上司との関係の貧しさ」

「成果と評価が連動しない制度」

「対話のなさ」

を挙げている。また、日本人の謙虚さから調査で肯定的な評価を控える傾向も影響しているという指摘もある。

ただ一つ言えることは、日本の低さは世界の中で際立っているということだ。

そしてその状況の中で4割以上の正社員が静かな退職を選んでいるのは、ある意味で当然の結果とも言える。

やりがいの低さによる世界経済への損失

Gallupの試算では、やりがいを感じて働く人が少ないことによる世界経済の損失は年間8.9兆ドル(世界GDPの9%)に上る。日本だけで見ても、年間86兆円以上の機会損失が生じているとされている。

これは「個人の問題」でも「世代の問題」でもない。世界規模の構造的な問題だ。

→ 詳細は「20代・30代が「静かな退職」を選ぶきっかけ——若手が会社への期待をやめた、これだけの理由」で

まとめ

  • 静かな退職は2022年にアメリカで言語化されたが、現象自体は世界同時多発的に起きていた
  • 中国の「躺平」は職場だけでなく社会システム全体への異議申し立てで、より深刻な構造問題を反映している
  • 韓国では職場人の70%が「給与分だけ働けばよい」と答え、日本と似た構造的問題が背景にある
  • ヨーロッパ全体の72%、イギリスの90%が静かな退職状態にあり、日本だけの問題ではないことは明白だ
  • 日本で仕事にやりがいを感じている人はわずか6%と世界最低水準だが、それは日本の職場構造が生み出した結果だ

「静かな退職」が世界に広がった背景と、自分を取り戻すためのロードマップはこちら。

「静かな退職」というあきらめのススメ:本当の自分を取り戻すためのロードマップ

日本固有の原因を深掘りしたい方はこちら。

「静かな退職」が日本で広がる原因——生産性低下と「報われない」職場の正体

FAQ

Q1. 静かな退職はどの国で最初に始まりましたか?

言葉として広まったのはアメリカだ。2022年、ニューヨーク在住の24歳エンジニアがTikTokに投稿した動画をきっかけに「Quiet Quitting」として世界に拡散した。ただし現象自体は各国で独自に起きており、中国の「躺平」は2021年から、韓国でも同時期に似た動きがあった。

Q2. 中国の「躺平」と日本の静かな退職は何が違いますか?

日本の静かな退職は「職場での最低限の働き方」を選ぶことが中心だ。中国の躺平はそれに加えて「結婚しない・子供を作らない・消費しない」という社会システム全体への拒絶が含まれる。日本より一歩踏み込んだ、より根深い諦念の表れだ。

Q3. 日本の従業員エンゲージメントはなぜ世界最低なのですか?

Gallupの分析によると、上司との関係の貧しさ・成果と評価が連動しない制度・対話のなさが主な原因とされている。年功序列や長時間労働文化も影響している。また日本人が調査で謙虚な評価をつける傾向も一因という指摘もある。

Q4. 静かな退職が広がると、経済にどんな影響がありますか?

Gallupの試算では、エンゲージメントの低さによる世界経済の損失は年間8.9兆ドル(世界GDPの9%)に上る。日本だけでも年間86兆円以上の機会損失とされている。「個人の問題」ではなく、社会全体に影響を与える構造的な課題だ。

Q5. ヨーロッパでは静かな退職に対してどのような対応をしていますか?

EUでは「つながらない権利」として労働者を守る法整備が進んでいる。勤務終了後から次の勤務開始まで最低11時間の連続休息を義務づける「勤務間インターバル制度」がその一例だ。仕事と私生活の境界を法律で守ろうとする点で、日本とは対照的な対応といえる。

参照したリンク先リスト

State of the Global Workplace 2024/Gallup

Only 6% of Japanese Workforce is Engaged, Among The Lowest in the World/Gallup Press Release

A staggering 90% of employees in the UK are quiet quitting/CNBC

寝そべり族/Wikipedia

조용한 퇴사(Quiet Quitting)の経済学/韓国メディア

正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)/マイナビキャリアリサーチLab