「ポートレート(portrait)」、カメラ好きでなくても耳にする言葉ですよね。
実はこの言葉、今日の portray と、同じ親から生まれた兄弟です。
portray は「描写する」「(役を)演じる」という意味の動詞。名詞の portrait とは別物に見えますが、どちらも古フランス語の同じ一語から枝分かれしました。
しかも、この2語の元をたどっていくと、train(列車)や treat(扱う)といった、まったく関係なさそうな単語にまで道がつながります。ポートレートを入り口に、その道筋をたどっていきます。
portray を分解してイメージで覚える|”引き出して見せる”
portray をパーツで見ると、こうなります。
por(=pro「前へ」)+ tray(=trahere「引く・引きずる」)
合わせて「前へ引き出す」。対象の中にあるものを、外へ引き出して形にする・・・それが portray のイメージです。
写真を撮るときも、小説を書くときも、俳優が役を演じるときも、していることは同じです。そこにある表情や性格や空気を、見える形に引き出してくる作業。
そしてこのイメージがいちばん素直に残っているのが、冒頭のポートレート(portrait)です。portray と portrait は、どちらも古フランス語 portraire(描く・写す)から来た兄弟語。portray は動詞としてそのまま、portrait は portraire の過去分詞が名詞になる形で、それぞれ英語に入りました。
ひとつ余談を。英語に入った時期は、portray が13世紀半ば、portrait が16世紀。兄弟とはいえ、英語に来るまでに300年ほどの開きがあります。
portray の基本の意味と使い方
portray は「描写する」「(役を)演じる」という意味の動詞です。
- The movie portrays life in 1920s Paris.(その映画は1920年代パリの暮らしを描いている)
- She portrays the role of a struggling artist.(彼女は苦悩する芸術家の役を演じている)
- The novel portrays the quiet strength of ordinary people.(その小説は、ふつうの人たちの静かな強さを描いている)
ただ事実を並べるのではなく、ある視点・ある解釈を通して描くというニュアンスがあります。だから portray は、portray A as B(AをBとして描く)の形をよく取ります。
The article portrays remote work as a positive change.
(その記事は、リモートワークを前向きな変化として描いている)
「どう描くかは、描く人しだい」・・・この余地があるのが portray です。
使い分け|portray・depict・describe
「描く」に近い語は複数ありますが、語源をたどるとニュアンスの違いがはっきりします。
| 語 | 語源 | ニュアンス |
|---|---|---|
| describe | de(下に)+scribere(書く) | 言葉で書き記す。客観的な説明 |
| depict | de(下に)+pingere(絵の具で塗る) | 絵のように視覚的に描く |
| portray | por(前へ)+trahere(引く) | 性格・人物像まで含めて描く。描き手の見方が入る |
describe は「書く」、depict は「塗る」、portray は「引き出す」。解釈や人物像をともなって描くときが portray です。
1枚の写真を例にすると、違いがはっきりします。
- describe:「青いシャツの男性が、窓際に座っている」・・・誰が見ても同じになる説明
- depict:窓からの光と室内の様子を、そのまま画面に写し取る
- portray:同じ写真を見て「孤独な男として描く」・・・描き手の解釈が加わる
describe は「書く」、depict は「塗る」、portray は「引き出す」。その人がどういう人か、という中身まで描くときが portray です。だから「批判的に描かれた(negatively portrayed)」「英雄として描かれた(portrayed as a hero)」のように、評価とセットで使われます。
“trahere(引く)”でつながる単語ネットワーク
portray の意味の中心 trahere(引く・引きずる/ラテン語。過去分詞は tractus)を知っておくと、見た目がまるで違う単語が一気につながります。
| 単語 | 意味 | イメージ |
|---|---|---|
| attract | 引きつける | at(〜へ)+tract=そちらへ引く |
| contract | 契約する、収縮する | con(一緒に)+tract=引き合ってまとまる |
| extract | 抜き出す | ex(外へ)+tract=外へ引き出す |
| distract | 気をそらす | dis(別方向に)+tract=あちこちへ引っ張る |
| subtract | 引き算する | sub(下から)+tract=下から引く |
| retract | 撤回する | re(後ろへ)+tract=引っ込める |
| tractor | トラクター | 引っ張る機械 |
ここまでは「tract」が見えているので、気づきやすい仲間です。
面白いのは、ここから先です。綴りに tract が残っていない単語にも、同じ「引く」がひそんでいます。
| 単語 | 意味 | つながり |
|---|---|---|
| train | 列車、訓練する | 引きずるもの → 長い裾、連なり、引っ張って育てる |
| treat | 扱う、おごる | tractare(引き回す→手で扱う)から |
| trace | たどる、痕跡 | 引かれた線 → あとをたどる |
| trait | 特徴 | 一筆で引かれた線 → その人らしさの一筆 |
| portrait | 肖像画 | 引き出して見せたもの |
「列車(train)の語源が”引きずるもの”」と聞くと納得しやすいですが、treat(おごる・扱う)や trait(特徴)まで同じ一族だとは、なかなか気づきません。
tract/tray/trait/train/treat・・・”tra” が見えたら、たぶん”引く”話。 こう見えてくると、初見の単語でも見当がつくようになります。portray は、この広い一族への入り口です。
派生語 Word Family
| 単語 | 品詞 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|---|
| portray | 動詞 | 描写する、演じる | ポートレイ /pɔːrˈtreɪ/ |
| portrayal | 名詞 | 描写、(役の)演技 | ポートレイアル /pɔːrˈtreɪəl/ |
| portrait | 名詞 | 肖像画、人物写真 | ポートリット /ˈpɔːrtrət/ |
| self-portrait | 名詞 | 自画像 | セルフポートリット |
| portraiture | 名詞 | 肖像画法、肖像画 | ポートリチャー /ˈpɔːrtrətʃər/ |
※ 発音で一つ注意を。日本語の「ポートレート」は、英語の portrait とは音が違います。英語は ˈpɔːrtrət(ポートリット) で、アクセントは前。いっぽう portray は pɔːrˈtreɪ(ポートレイ) で、アクセントは後ろです。兄弟なのにアクセントの位置が逆、と覚えておくと間違えません。
TOEIC・英検での出題傾向
portray は、TOEIC の文法問題でねらわれるタイプの語ではありません。出てくるとしたら Part 7 の読解・・・新聞記事、書評、人物紹介、広報文のような「誰かが何かをどう描いているか」を扱う英文です。
The report portrays the company as an industry leader.
(その報告書は、その会社を業界のリーダーとして描いている)
英検では準1級〜2級の長文や、大学入試の評論文でもよく見かけます。
読解でのポイントは一つだけ。portray A as B の形を見つけたら、B にあたる部分が筆者の見方です。事実の記述ではなく解釈が入っている合図なので、設問でもそこがよく問われます。
英文で確認|翻訳練習10問
- This photo portrays her calm and gentle side.
- The documentary portrays the daily life of local farmers.
- He was chosen to portray the lead character in the film.
- The article portrays remote work as a positive change.
- Your resume should portray your strengths clearly.
- The painting portrays a quiet afternoon by the sea.
- She portrayed her grandmother with great warmth.
- How you portray yourself in an interview matters a lot.
- The story portrays hope even in difficult times.
- A good portrait portrays not just a face, but a life.
語源メモ|portray と protract は、同じ一語だった
portray が英語に入ったのは13世紀半ば。アングロ・フランス語 purtraire、古フランス語 portraire(描く・写す)からで、分解すると por-(ラテン語 pro-「前へ」)+ traire(ラテン語 trahere「引く」)。文字どおり「引き出す・なぞる」です。
対応するラテン語の動詞は protrahere(前へ引き出す)。もともとは物理的に「引っぱり出す」意味でしたが、中世ラテン語では「描く・塗る」の意味でも使われるようになりました。
ここでもう一つ。この protrahere は、**protract(引き延ばす)**としても英語に入っています。つまり portray と protract は、語源としては同じ一語です。片方はフランス語を経由して形が崩れ「描く」になり、もう片方はラテン語から直接入って「引き延ばす」になった・・・同じ親から生まれた、顔の似ていない兄弟というわけです。
そして trahere は、過去分詞 tractus の形で英語のあちこちに残っています。attract・contract・extract・distract・subtract・retract・tractor。さらに、綴りが崩れた train・treat・trace・trait・portrait。「引く」というたった一つの動作から、これだけの語が枝分かれしました。
「por(前へ)+ tray(引く)=引き出して見せる」。このイメージひとつ持っておくと、かなり広い範囲に手が届きます。
まとめ
portray は、por(=pro「前へ」)+ tray(=trahere「引く」)で「前へ引き出して見せる」=描写する・演じる。
- ポートレート(portrait)と兄弟・・・どちらも古フランス語 portraire から
- protract(引き延ばす)とは同じラテン語・・・経路が違っただけ
- trahere(引く)一族・・・attract/contract/extract/distract/subtract/retract/tractor
- 綴りが崩れた仲間・・・train/treat/trace/trait/portrait
写真も、文章も、演技も、していることは同じです。相手の中にあるものを、そっと外へ引き出してみせる。それが portray です。

- 語源・中心:por(pro=前へ)+tray(trahere=引く)=「引き出して見せる」
- 覚え方のヒント:ポートレート(portrait)は portray の兄弟
- portray一族:portrait/portrayal/self-portrait/portraiture/protract
- trahere(引く)一族:attract/contract/extract/distract/subtract/retract/tractor/train/treat/trace/trait
NAWL(New Academic Word List)・BSL(Business Service List)収録語
この単語は NAWL(学術) と BSL(ビジネス) の両方に集録されています。学術英語でもビジネスでも頻出する、汎用性の高い一語です。
出典:New General Service List Project
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翻訳練習の解答
- この写真は、彼女の穏やかでやさしい一面を写し出している。
- そのドキュメンタリーは、地元の農家の日常を描いている。
- 彼はその映画で主人公を演じることに選ばれた。
- その記事は、リモートワークを前向きな変化として描いている。
- あなたの履歴書は、あなたの強みをはっきりと伝えるべきだ。
- その絵は、海辺の静かな午後を描いている。
- 彼女は、祖母を温かく演じた。
- 面接であなた自身をどう見せるかは、とても大事だ。
- その物語は、厳しい時代の中にも希望を描いている。
- 10. 良い肖像画は、顔だけでなく、その人の人生までも描き出す。。


