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20代・30代が「静かな退職」を選ぶきっかけ——若手が会社への期待をやめた、これだけの理由

著者情報
【著者:鈴木一世(イッセー)】

現役大学教員・カウンセラー。
  専門の「第二言語習得理論」と「心理学」に基づき、氷河期世代・非正規雇用・転職に関わるリスキリング戦略をデータで解説。挫折しそうな人のための、脳と心の攻略ガイド。  

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日本で「静かな退職」が広がっているのは、働く人の意欲が下がったからではない。

報われない職場の構造が、長年にわたって変わっていないからだ。

日本の労働生産性はOECD加盟38カ国中28位(日本生産性本部, 2025年)。

従業員エンゲージメント、つまり「仕事にやりがいを感じている人の割合」は世界最低水準の6%(Gallup, 2024年)。 この数字は、「個人の問題」ではなく「職場の構造」が生み出した結果だ。

「なんでこんなに一生懸命やっているのに、何も変わらないんだろう」

そう感じたことはないだろうか。

提案しても通らない

評価されない。

残業しても給与は変わらない。

それが何年も続いたとき、人は静かに「もうここでは頑張らない」と決める。

これは弱さではない。日本の職場が持つ、構造的な問題が生み出している現象だ。

この記事では、なぜ日本でこれほど静かな退職が広がったのか、その「原因」を3つの視点から整理する。

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原因① 日本の労働生産性は先進国最低水準——「がんばれば報われる」は幻想だった

日本の職場は、がんばっても生産性が上がりにくい構造になっている。それが「頑張り損」という感覚を生んでいる。

日本生産性本部が2025年12月に発表したデータによると、2024年の日本の時間当たり労働生産性は60.1ドル(約5,720円)で、OECD加盟38カ国中28位だった。

主要先進7カ国(G7)の中では、1970年以降一貫して最下位が続いている。

これはどういうことか。簡単に言うと、日本では1時間働いても、他の先進国に比べて生み出せる価値が少ない、ということだ。

なぜか。長時間働いていても、その時間の使い方が非効率だからだ。

残業して当然」「会議のための会議」「報告書のための報告書」——こういった無駄が積み重なると、働いた時間の割に成果が出ない。

問題はここにある。

成果が出ない職場では、「もっと働け」という圧力だけが強まる。

経営者の能力が問題であるにも関わらず、経営者自身はそれを自覚しない。すべて社員のせいにする。

そのため、働く側は「どれだけ働いても変わらない」という経験を重ねる。

その繰り返しが、心理的な離脱——静かな退職——へとつながっていく。

出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」

→ 真面目な人がこの状況にどう向き合うかは
「真面目な人が「静かな退職」に向かうまで——評価されない日々が積み重なると、何が起きるのか」

で詳しく解説している

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原因② 年功序列という「報われない仕組み」——がんばっても評価に直結しない

日本の多くの職場では、成果より「在籍年数」が評価される。これが「がんばっても意味がない」という感覚の根本にある。

会議中にスマホを見る20代の会社員。静かな退職を選ぶ若手の疎外感と静かな抵抗を象徴する場面。

年功序列とは、年齢や勤続年数によって給与や役職が上がる仕組みのことだ。

戦後の高度経済成長期に定着し、企業が拡大し続ける時代には合理的だった。

毎年ポストが増え、長く働けば必ず昇進できた。

しかし今は違う。

企業が成長しなくなり、ポストは増えず、長く働いても昇進の見込みが薄い

それでも評価の基準は「年数」のまま変わっていない。

ある調査では、成果主義を導入している企業は74.5%に上る一方、年功序列も46.7%の企業に残存していると報告されている(日本の人事部 人事白書)。

つまり、「建前は成果主義・実態は年功序列」という職場が多数存在する。

この矛盾が何を生むか。

頑張っても評価されない」という体験だ。

特に若手・中堅にとって、この矛盾は強烈にメンタルを削る。

能力があっても、年次が低ければ抜擢されない。提案しても「まだ早い」と言われる。

そして「ここでは何をしても変わらない」と学習する。

年功序列のもう一つの弊害が、「事なかれ主義」の蔓延だ。

成果と評価が連動しないと、新しいことへのチャレンジよりも「ミスをしないこと」が優先される。

職場全体が変化を嫌い、現状維持を選ぶようになる。

その空気の中で、意欲のある人間は孤立する。

→ この評価の仕組みが心理的にどう作用するかは
「頑張っても無駄」と学習してしまう日本の評価制度——セリグマンの実験が示す、静かな退職の心理的な罠

で詳しく解説している

原因③ 従業員エンゲージメント世界最低——「職場に心がない」という現実

日本の従業員の94%が、仕事に本気で向き合えていない状態にある。これは個人の問題ではなく、職場の設計の問題だ。

Gallupの2024年調査では、日本の従業員エンゲージメント(仕事への意欲・関与度)はわずか6%。

調査対象139カ国中、世界最低水準だ。世界平均は23%なので、日本がいかに突出して低いかがわかる。

さらに衝撃的な数字がある。「積極的に職場の目標に反対している」いわゆる社員たちがいる。

こういう人たちは「声の大きな離脱者」と呼ばれ、その割合は24%とする数字がある。

つまり仕事に意欲的な6%の4倍もの人が、職場に対して否定的な態度を取っている。

なぜこうなるのか。Gallupの分析によると、従業員の積極性に最も影響するのは「直属の上司との関係」だ。

上司が適切に関与すれば、チームの仕事のやりがいは大きく改善する。

逆に言えば、

マネジメントの質が低い職場では、いくら制度を整えても意欲は生まれない。

日本の多くの職場では、管理職は「プレイングマネージャー」として自分の業務も抱えながら部下を見る。

1on1などの対話の時間は少なく、部下の状況が見えていない上司が多い。その結果、従業員は「自分のことを見てくれていない」と感じ、心が職場から離れていく。

そして一度離れた心は、なかなか戻らない。

GPTW Japanの調査(2024年)では、静かな退職実践者の約4割が「職場環境が変わっても働き方は変わらない」と答えている。気づいたときには、すでに手遅れのケースが多い。

一度無力感が身体と心に染み付くと、そこから抜け出すことは難しいのだ。

日本の「静かな退職」の構造を整理する

原因具体的な現象従業員への影響
生産性の低さ長時間労働・非効率な業務「頑張っても成果が出ない」疲弊感
年功序列の残存成果と評価の乖離・事なかれ主義「何をしても変わらない」無力感
エンゲージメントの低さマネジメントの質の低さ・対話不足「見てもらえていない」疎外感

この3つは、それぞれ独立した問題ではなく、互いに絡み合っている。

生産性が低い職場では評価が曖昧になり、評価が曖昧な職場ではエンゲージメントが下がる。

そしてエンゲージメント(仕事のやりがいを感じる率)が低い職場は、さらに生産性が落ちる。

負の連鎖だ。

この構造の中にいる人間が「静かな退職」を選ぶのは、合理的な判断とも言える。

消耗し続けるより、エネルギーを温存する方が、長く生き延びられるからだ。

日本企業の体質がもたらす分断

上司は「Z世代は・・・」「今の若者は・・・」と言う。「根性がない」「あきらめが早い」と言う。

そして若い世代は、日本の企業の生産性の低さに嫌気が差し、自分の成長に関わろうとしない上司に絶望する。

こうした分断は、日本企業の持つ体質が大きく影響しており、さらに生産性を下げることにつながる。しかし一番の要である多くの経営者は、それを自分のせいだと感じていない。

が、こうした試みを進める企業もある。今後の動きに期待したい。

【SIer再定義】新興企業「地方×シニア×フルリモート」で業界の壁をぶち破る【NewsPicks/ROIT/須黒清華/牧野正幸/柿崎直紀/SIer業界/多重下請け問題/2025年の崖/リスキリング】(Youtube動画:37分)

クラウド・ローコード技術を生かしたROITのシステム開発(Youtube動画:3分弱)

まとめ

  • 日本の労働生産性はOECD38カ国中28位、G7最下位が続いている(日本生産性本部, 2025年)
  • 年功序列の残存により「成果と評価が連動しない」職場が多数存在する
  • 従業員エンゲージメントは世界最低の6%(Gallup, 2024年)。94%が本気で仕事に向き合えていない
  • この3つの構造が絡み合い、「報われない」という感覚を生み出し、静かな退職を広げている
  • 静かな退職は個人の怠慢ではなく、職場の設計が生み出した結果だ

「なぜ自分がこうなったのか」の全体像を把握するためのロードマップはこちら。

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心が発しているSOSを無視せず、まずは「今のままでいい理由」を知ることから始めてみませんか。

あなたの自尊心を守りながら、無理のない範囲で新しい視点を取り入れるためのヒントをまとめました。

よくある質問(FAQ)

Q1. 20代・30代の静かな退職は、上の世代と何が違いますか?

40代・50代は「評価されない」「報われない」という外からの不満が主なきっかけになりやすい。一方、20代・30代は「そもそも会社に多くを期待していない」という内発的な価値観が背景にあることが多い。怒りより、冷静な現実判断から始まっているのが若手世代の特徴だ。

Q2. 静かな退職をしている20代は、転職を考えていますか?

マイナビ調査(2025年)によると、「静かな退職を続けたくない」と答えた割合は20代が全年代で最も高く35.4%だった。静かな退職状態に甘んじているわけではなく、「本当は変わりたい」という気持ちを持ちながらも動けずにいる人が多い。

Q3. 入社してすぐ静かな退職状態になるのはなぜですか?

「働き始めてから静かな退職を選ぶようになった」と答えた人が71%に上る(GPTW Japan, 2024)。入社前のイメージと実際の職場環境のギャップ、意見が通らない経験、評価されない日々——これらが短期間で積み重なることで、心が早期に職場から離れてしまう。

Q4. コスパ重視で働くのは悪いことですか?

悪いことではない。「給与に見合った仕事量にする」という考え方は、契約の範囲内で働くという当然の権利だ。問題があるとすれば、その判断に至らせた職場環境の側にある。

Q5. 上司として、部下の静かな退職にどう気づけますか?

会議での発言が減った、以前より反応が薄い、定時ぴったりに帰るようになった——こうした小さな変化が初期サインになりやすい。ただし、それを「問題行動」として指摘する前に、「なぜそうなったか」を問い直す姿勢が先に必要だ。

Q6. 静かな退職状態の若手は、どうすれば変わりますか?

GPTW Japanの調査では、静かな退職実践者の約4割が「環境が変わっても働き方は変わらない」と回答している。裏を返せば、残り6割には変化の余地がある。鍵は評価制度の透明化と、小さな提案が通る経験の積み重ねだ。ただし、手遅れになる前に動くことが重要で、静かな退職が始まった初期段階での対応が効果的とされている。

Q7. 静かな退職をしている自分は、このままでいいですか?

「このまま」を続けることで心が守られているなら、今はそれでいい。ただし、それを「終点」にするのではなく「充電期間」として使えると、次の一手が見えてくる。まず1日15分だけ、仕事と関係のない自分のことを考える時間を作ることから始めてみてほしい。

参考にしたサイトのリンク

セリグマンの「学習性無力感」
J-STAGE(国内心理学論文検索)