「チープな作り」「チープな感じ」。日本語になったチープは、ちょっと安っぽいね、くらいの軽い言葉ですよね。
でも英語の cheap は、少し扱いが違います。モノに使うなら問題ないのに、人やお店、サービスに向けた瞬間、「ケチ」「みすぼらしい」という刺のある言葉に変わる。カタカナで馴染んでいるぶん、英語で話すときにもつい口から出てしまう・・・それが cheap のいちばん怖いところです。
そしてもう一つ。この cheap、もともとは「安い」という意味ですらありませんでした。
cheap の意味の中心|もとは「市場・取引」だった
cheap のもとになったのは、古英語の ceap。意味は「取引」「売買」、そして「市場」です。
ここに「安い」はまだ出てきません。では、どこから来たのか。中英語の god chep(良い取引=good bargain)という言い回しがよく使われるようになり、その「お買い得」の部分だけが切り取られて、cheap =「安い」という形容詞になった・・・という流れです。「安い」の意味が定着したのは1500年ごろ。英語の歴史からすると、かなり新しい顔です。
ついでに言うと、古英語で「安い」を表す言葉は undeor、つまり「un+dear(高価でない)」でした。イギリス英語で今も dear が「値段が高い」の意味で使われるのは、その名残です。
意味の中心をひとことで言えば、cheap は「市場で値段をつけられたもの」。この「値踏みされている」感じが残っているせいで、人に向けると「あの人は安い」という響きになってしまうわけです。
cheap の基本の意味と使い方
まずモノに使う場合。これは日本語のチープとほぼ重なります。
- a cheap ticket(安いチケット)
- cheap labor(安価な労働力)
- Those shoes look cheap.(あの靴は安っぽく見える)
ただし3つ目でわかるように、モノに使っても「安っぽい=品質が低い」の意味が混ざります。cheap は値段と品質の両方を同時に指せる言葉なんです。
問題は、人に使うとき。
- He’s so cheap.(あいつは本当にケチだ)
これは値段の話ではなく、性格の批判です。日本語のチープのつもりで言うと、かなり角が立ちます。
慣用表現もいくつか押さえておくと便利です。
- dirt cheap(ものすごく安い・・・直訳は「土のように安い」)
- on the cheap(安上がりに)
- a cheap shot(卑怯な一撃、不当な批判)
- Talk is cheap.(口先だけなら簡単だ)
使い分け|ビジネスで cheap は、まず使わない
ここが実用上いちばん役立つところです。英語圏のビジネス文書や商品説明で、cheap はほとんど見かけません。「安い」と言いたいとき、プロはこう言い換えます。
| 言い換え | 意味・ニュアンス | 使う場面 |
|---|---|---|
| affordable | 手が届く、無理のない価格 | 商品説明・広告の定番 |
| inexpensive | 高くない(中立的・安全) | cheap の素直な置き換え |
| reasonable | 妥当な、納得できる値段 | reasonably priced の形で頻出 |
| economical | 経済的、長い目で得 | 燃費・ランニングコスト |
| cost-effective | 費用対効果が高い | 社内資料・提案書 |
| budget-friendly | 予算にやさしい | 旅行・飲食の案内 |
| competitive | 他社に負けない価格 | competitive prices で頻出 |
cheap が「値段は安いが、それなり」と言っているのに対し、affordable は「無理なく買える」と、買い手に寄り添った言い方になります。同じ金額でも、相手に残る印象がまるで違う・・・英語の価格表現は、ここを使い分けています。
迷ったら inexpensive。中立でいちばん安全です。
ceap(取引・市場)でつながる単語ネットワーク
cheap のもとになった ceap(取引・市場)をたどると、まったく別の顔をした言葉が現れます。ここが cheap という単語のいちばん面白いところです。
| 単語・地名 | 意味 | つながり |
|---|---|---|
| chapman | 行商人 | 古英語 ceapman〈取引する人〉 |
| chap | やつ、男(くだけた語) | chapman が縮まった形。もとは「取引相手・客」 |
| cheapen | 価値を下げる、安っぽくする | cheap+-en |
| cheapskate | けちんぼ | cheap+skate(由来は諸説あり) |
| Cheapside | ロンドンの地名 | ceap〈市場〉=かつての大市場 |
| Eastcheap | ロンドンの地名 | 同じく「東の市場」 |
| Copenhagen | コペンハーゲン(デンマークの首都) | køber〈商人・買い手〉+havn〈港〉=「商人の港」 |
いちばん驚くのは、たぶん最後の Copenhagen でしょう。デンマーク語の København を分けると、køber(商人・買い手)+ havn(港)。この køber は、英語の cheap とまったく同じゲルマン系の語根から来ています。北欧の美しい首都の名前が、実は「商人たちが集まる港」・・・つまり cheap の親戚なんです。
ドイツ語の kaufen(買う)、オランダ語の goedkoop(安い=「良い取引」そのまま)も同じ一族。ヨーロッパの商いの歴史が、この小さな語に全部残っています。
派生語|cheap まわり
| 単語 | 品詞 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|---|
| cheap | 形容詞 | 安い、安っぽい、ケチな | チープ /tʃiːp/ |
| cheaply | 副詞 | 安く、安上がりに | チープリー /ˈtʃiːpli/ |
| cheapness | 名詞 | 安さ、安っぽさ | チープネス /ˈtʃiːpnəs/ |
| cheapen | 動詞 | 価値を下げる、安っぽくする | チーペン /ˈtʃiːpən/ |
| cheapskate | 名詞 | けちんぼ(口語) | チープスケイト /ˈtʃiːpskeɪt/ |
| chap | 名詞 | やつ、男(主に英) | チャップ /tʃæp/ |
cheaply は「安く手に入れる・安く作る」の意味で使います。buy it cheaply(安く買う)、produced cheaply(安く作られた)。こちらも、人の行為に向けると「ケチくさく」の響きが出ることがあります。
TOEIC・英検での出題傾向
TOEIC で押さえておきたいのは、cheap そのものより言い換えです。広告やお知らせの英文では、価格の安さは affordable・reasonably priced・competitive prices といった形で書かれます。本文にこれらの語があり、設問や選択肢で別の表現に置き換えられる・・・というパラフレーズは、Part 7 の典型的な出題のしかたです。cheap とセットで覚えておくと、読解でも設問でも効きます。
cheap 自体は英検でも早い級から出る基本語ですが、「人に使うと失礼」という語感は、スピーキングやライティングでこそ差がつくポイントです。
英文で確認|翻訳練習10問
英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。
- This jacket was cheap, but it has lasted for years.
- Cheap does not always mean poor quality.
- You found a cheap flight, and the whole trip became possible.
- The café near the station is cheap and warm.
- Try “affordable” instead of “cheap” when you talk to a client.
- A cheap dinner with a good friend can beat any fancy meal.
- Calling a person cheap sounds harsher than you might think.
- Your kindness is never cheap, even when it costs nothing.
- He started with a cheap guitar and kept playing every day.
- Cheap or not, what you chose with care will stay with you.
語源メモ|ceap と、ラテン語 caupo
cheap は、古英語の名詞 ceap(取引、売買、市場)と動詞 ceapian(売買する)にさかのぼります。さらに遡ると、ゲルマン語がラテン語の caupo(小商人・行商人)を早い時期に借用したもの、というのが有力な説です。
形容詞としての cheap が「安い」の意味で定着したのは1500年ごろ。中英語の god chep(良い取引)という言い回し・・・これはフランス語の a bon marché を訳したものですが・・・この後半部分だけが独り立ちしました。「軽んじられる、ありふれた」という否定的な意味が加わったのは1590年代です。ラテン語の vilis(安い→卑しい)にも同じ意味の変化が起きていて、「安い」が「価値がない」に転ぶのは、言語を越えてよくある道筋のようです。
地名に残った ceap も見逃せません。ロンドンの Cheapside と Eastcheap は、どちらも中世の市場があった場所。イングランド各地に残る Chipping ◯◯ という地名も同じ系統で、「市場のある町」を意味します。
そして ceapman(取引する人)が短くなった chap が、「取引相手・客」から「やつ、男」というくだけた呼び方に変わったのが17〜18世紀。old chap と気安く呼びかけるときの chap が、もとは商売の言葉だった・・・というわけです。
まとめ
cheap は、古英語 ceap(取引・市場)=「値踏みされたもの」が意味の中心。そこから「お買い得」→「安い」→「安っぽい・ケチな」へと転がってきました。
- モノに使う・・・安い、ただし「安っぽい」が混じる
- 人に使う・・・「ケチ」。日本語のチープのつもりで言うと失礼になる
- ビジネスでは・・・affordable/inexpensive/reasonable/cost-effective に言い換える
- 意外な親戚・・・chap(やつ)、Cheapside(ロンドンの市場)、Copenhagen(商人の港)
カタカナになっている言葉ほど、英語での手触りを一度確かめておく。cheap は、その代表格です。

- 語源・中心:古英語 ceap(取引・市場)→ god chep(良い取引)→「安い」
- 覚え方のヒント:市場で値踏みされたもの。だから人に使うと失礼になる
- 言い換え一族:affordable/inexpensive/reasonable/economical/cost-effective
- ceap(取引)一族:chap/chapman/cheapen/cheapskate/Cheapside/Copenhagen
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翻訳練習の解答
- このジャケットは安かったけれど、何年も長持ちしている。
- 安いからといって、品質が悪いとはかぎらない。
- あなたが安い航空券を見つけたから、この旅行そのものが実現した。
- 駅のそばのカフェは、値段が手頃で居心地もいい。
- 取引先と話すときは、cheap ではなく affordable を使ってみよう。
- 気の合う友人との安い夕食は、どんな豪華な食事にも勝ることがある。
- 人をケチ呼ばわりするのは、思っている以上にきつく響く。
- あなたのやさしさは、お金がかからなくても決して安いものではない。
- 彼は安いギターから始めて、毎日弾き続けた。
- 安くても高くても、丁寧に選んだものは長く手元に残る。
BSL(Business Service List)集録語
派生語のcheaplyは Business Service List(BSL) に集録されています。BSLはビジネス英語のコーパスから抽出された1,700語のリストで、これらを覚えればビジネス文書・会議・メールで使われる語彙の約97%をカバーできます。仕事で英語を使う場面で効いてくる一語です。
出典:New General Service List Project

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