人事評価で「コンピテンシー(competency)」という言葉を聞いたことがあると思います。能力、行動特性、職務遂行力・・・会社によって訳し方はバラバラですが、だいたい「仕事ができること」の意味で使われています。
この competency、もとは形容詞 competent(コンピテント)です。そして competent をじっと見ると、真ん中あたりに compete(競う)が隠れているように見える。だから「コンピテンシー=競争力のこと」と思っている人は、けっこう多いはずです。
ところが、ここに大きなズレがあります。competent が英語に入ったのは14世紀末。compete が入ってきたのは1610年代です。つまり competent のほうが200年以上も先輩で、compete が生まれる前から英語にいた言葉なんです。
では competent は何を意味していたのか。答えは「競う」ではなく、「ちょうど釣り合っている・求められる水準に届いている」でした。この記事では、その「釣り合い」の感覚をつかみます。
なお competent は NAWL(学術語彙リスト)と BSL(ビジネス語彙リスト)に収録されている単語です。論文でも社内文書でも出てくる、押さえておきたい一語です。
- competent を分解してイメージで覚える|意味の中心は「ぴったり噛み合う」
- competent の基本の意味と使い方
- competent は「優秀」ではない|ほめ言葉として弱い理由
- compete(競う)のほうが後輩だった|年代で見る逆転
- 「a competence」が「十分な収入」だった時代
- 法律とビジネスの competent|「権限がある」という顔
- 遠い親戚|feather・helicopter・hippopotamus
- 派生語|competent の Word Family
- TOEIC・英検での出題傾向
- 英文で確認|翻訳練習10問
- 語源メモ|competere が分けた二つの枝
- まとめ
- 関連記事(内部リンク)
- 翻訳練習の解答
competent を分解してイメージで覚える|意味の中心は「ぴったり噛み合う」
competent はラテン語 competere から来ています。パーツはこうです。
com(一緒に・共に)+ pet(petere=求める・向かっていく)+ ent(〜している)
直訳すると「一緒に向かっていっている状態」。ここから古典ラテン語の competere は「出会う・一致する・噛み合う」、そして「資格がある」という意味で使われていました。
イメージは、歯車です。こちらの歯と相手の歯が、ズレもガタつきもなくカチッと噛み合っている・・・その「噛み合っている感じ」が competent の意味の中心です。
求められている水準と、その人の実力。この2つが噛み合っていれば competent。噛み合っていなければ incompetent。シンプルな構図です。
competent の基本の意味と使い方
competent は「有能な、きちんとできる、適格な」を表す形容詞です。
- a competent engineer(きちんと仕事のできるエンジニア)
- competent staff(必要な力を備えたスタッフ)
- be competent to do ~(~する能力・資格がある)
- be competent in / at ~(~の分野で力がある)
文型で気をつけたいのは、うしろの形です。competent は to不定詞か in / at を取ります。of は取りません。
○ She is competent to handle the negotiation.
× She is competent of handling the negotiation.
competent は「優秀」ではない|ほめ言葉として弱い理由
ここが日本人学習者のつまずきどころです。competent を「優秀な」と訳して覚えると、使うときに事故が起きます。
competent の意味は「要求水準をきちんと満たしている」。つまり合格ラインには達している、けれどそれ以上は言っていない、という言葉なんです。
Merriam-Webster も competent を「問われることなく、すべての要件を満たしている」という方向で説明しています。要件は満たす。そこまで。
だから a competent performance と言うと、「破綻はないが、心を動かされはしなかった」というニュアンスになりがちです。英語圏では、ほめているようで実はほめていない表現・・・いわゆる「控えめなけなし方」として働くことがあります。
本気でほめたいときは excellent、outstanding、exceptional あたりを使ってください。逆に、ミスの多い相手に対して「最低限はできている」と中立に言いたいときには competent がちょうどいい。
この温度感も、語源の「ちょうど噛み合っている」から素直に出てきます。噛み合っているだけで、飛び抜けてはいない。
compete(競う)のほうが後輩だった|年代で見る逆転
ここで冒頭の話に戻ります。年代順に並べると、こうなります。
| 語 | 英語に入った時期 | そのときの意味 |
|---|---|---|
| competent | 14世紀末 | ふさわしい、十分な、適格な |
| competency | 1590年代 | 暮らしていくのに足りること |
| competition | 1600年 | 同じものを同時に得ようとする行為 |
| compete | 1610年代 | 競争関係に入る |
| incompetent | 1610年代 | 不十分な |
competent がいちばん古い。compete はいちばん新しい部類です。
なぜこうなるか。ラテン語 competere は、古典期には「出会う・一致する・資格がある」でした。「一緒に何かを目指して張り合う」という競争寄りの意味は、後期ラテン語になってから育った枝なんです。
英語は、先に「一致する・ふさわしい」の枝を competent という形で受け取り、ずっとあとになって「張り合う」の枝を compete として受け取った。同じ木の、別の時期に伸びた枝を、別々のタイミングで持ってきたわけです。
おまけの話をひとつ。compete は17世紀にはほとんど使われず、18世紀末に復活した言葉です。OED によれば、19世紀初めのイギリスでは「スコットランド語かアメリカ語」と見られていた時期もありました。今では競争社会の中心語なのに、意外な経歴です。
「a competence」が「十分な収入」だった時代
もうひとつ、知っておくと英文学が読みやすくなる話を。
competence には1630年代から「不自由なく暮らせるだけの資力」という意味がありました。名詞で a competence と言えば、能力ではなく「暮らしていける程度の収入」のことだったんです。
ジェイン・オースティンの『分別と多感』(1811年)に、まさにこの用法が出てきます。マリアンとエリナーが、お金はどれくらいあれば十分かを語り合う場面です。エリナーは、あなたの言う competence と私の言う wealth は似たようなものでしょうね、と笑う。ここでの competence は「必要を満たすだけの額」という意味です。
「ちょうど足りている」という語源の芯が、お金の話にもそのまま出ているのがわかります。能力でも収入でも、competent は「足りている」なんです。
現代ではこの用法はほぼ使われませんが、19世紀以前の小説を読むときの引っかかりが一つ減ります。
法律とビジネスの competent|「権限がある」という顔
competent にはもう一つ、現代でも現役の専門的な顔があります。「法的な資格・権限がある」です。
- a competent court(管轄権のある裁判所)
- the competent authority(所管官庁、権限ある当局)
- competent evidence(証拠能力のある証拠)
- competent to stand trial(訴訟能力がある)
この法律用語としての用法は1708年には記録があります。ここでも意味は同じで、「その案件とその機関が、きちんと噛み合っている」。能力の話というより、対応関係の話です。
契約書や規約の英文で the competent authority が出てきたら、「有能な当局」ではなく「所管する当局」。ここを誤訳すると文書全体の意味が変わるので、実務では要注意の一語です。
遠い親戚|feather・helicopter・hippopotamus
competent のうしろ半分 pet は、ラテン語 petere(求める、襲いかかる)。その奥には、印欧祖語の根 *pet-(突進する・飛ぶ)があると推定されています。
petition や appetite といった「求める」側の一族は、別記事(competition)でまとめてあります。ここでは、同じ根から「飛ぶ」側に伸びたほうの枝を見てください。綴りが競争とまったく重ならないので、知っていると気持ちがいい並びです。
| 語 | 意味 | つながり |
|---|---|---|
| feather | 羽根 | ゲルマン語経由で *pet-(飛ぶ)へ |
| pen | ペン | ラテン語 penna(羽根)=羽根ペンから |
| helicopter | ヘリコプター | helico(らせん)+ pter(ギリシャ語 pteron=翼) |
| pterodactyl | 翼竜 | ptero(翼)+ dactyl(指) |
| hippopotamus | カバ | hippo(馬)+ potamos(川=流れ走る水) |
| symptom | 症状 | syn(共に)+ piptein(落ちる)=一緒に降りかかるもの |
ヘリコプターの話は面白いので一つだけ。helicopter の正しい切れ目は heli+copter ではなく、helico+pter です。ヘリポート(heliport)の heli- は、本来の切れ目を無視して切り出された新しいパーツなんです。「翼(pter)」が消えてしまった、ちょっと気の毒な略し方といえます。
なお、この印欧祖語レベルのつながりは再構された推定であり、辞書も「含まれるかもしれない」という書き方をしています。断定ではなく、そういう見立てがある、という距離感で覚えてください。
派生語|competent の Word Family
| 単語 | 品詞 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|---|
| competent | 形容詞 | 有能な、適格な、権限のある | コンピテント /ˈkɑːmpɪtənt/ |
| competently | 副詞 | きちんと、過不足なく | コンピテントリー /ˈkɑːmpɪtəntli/ |
| competence | 名詞 | 能力、適性、権限 | コンピテンス /ˈkɑːmpɪtəns/ |
| competency | 名詞 | 能力、(人事)コンピテンシー | コンピテンシー /ˈkɑːmpɪtənsi/ |
| incompetent | 形容詞 | 無能な、不適格な | インコンピテント /ɪnˈkɑːmpɪtənt/ |
| incompetence | 名詞 | 無能、不適格 | インコンピテンス /ɪnˈkɑːmpɪtəns/ |
| core competency | 名詞句 | 中核的な強み | コアコンピテンシー |
competence と competency は、もともとほぼ同じ意味の二重語です。現代では、competence が「能力があるという状態」全般、competency が「評価項目として切り出された個別の能力」という方向で使い分けられることが多くなっています。人事の文脈で competencies と複数形になるのは、後者の用法です。
ちなみに、人事用語としてのコンピテンシーが広まったきっかけは、心理学者デイヴィッド・マクレランドが1973年に発表した論文「知能ではなく、コンピテンスを測れ」でした。学力テストや知能テストより、実際に成果を出している人の行動特性を見るべきだ、という主張です。
「競争力を測る」話ではなく、「要求される仕事と、その人の行動がきちんと噛み合っているかを測る」話だった。語源どおりの中身だったわけです。
TOEIC・英検での出題傾向
competent は TOEIC の Part 5・6 の語彙問題や、求人・人事関連の文書でよく見かけます。
- competent staff / a competent candidate(人材の評価)
- be competent to approve the request(権限の有無)
- the competent authority(契約書・規約の定型表現)
- core competencies(企業紹介、経営の文脈)
空所補充では、capable・qualified・efficient あたりと並べられることがあります。ざっくりした使い分けの目安はこうです。
- competent・・・求められる水準を満たしている
- capable・・・やろうと思えばできる潜在的な力がある
- qualified・・・資格や学歴など、形式の要件を満たしている
- efficient・・・無駄なく速い
英検では準1級あたりで出会う語です。incompetent とセットで覚えておくと、長文で迷いません。
英文で確認|翻訳練習10問
英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。
- She is a competent nurse.
- You are more competent than you think.
- The court is not competent to hear this case.
- He gave a competent but forgettable performance.
- You do not have to be perfect to be competent.
- Our team lacks competence in data analysis.
- A competent manager listens before deciding.
- You handled that complaint in a competent way.
- Please contact the competent authority in your country.
- Years of quiet practice turned into competence.
語源メモ|competere が分けた二つの枝
competent は14世紀末、古フランス語 competent(十分な、ふさわしい)から、またラテン語 competentem(competere の現在分詞)から英語に入りました。最初の意味は「ふさわしい、要件を満たしている、十分な」。「能力がある」という意味が記録されるのは1640年代です。
ラテン語 competere は com(一緒に)+ petere(求める、向かう)。古典ラテン語では「出会う、一致する、資格がある」、後期ラテン語で「共に目指す、張り合う」の意味が加わりました。英語はこの二つの枝を別々の時代に受け取ります。先に competent(14世紀末)、ずっとあとに competition(1600年)と compete(1610年代)です。
名詞 competency は1590年代、competence は1630年代。どちらも最初は「暮らしに足りるだけの資力」を指し、「十分な能力」の意味は competence が1790年、competency が1797年に記録されています。incompetent は1610年代、in(否定)+ competent です。
petere の奥にある印欧祖語 *pet-(突進する・飛ぶ)からは、petition・appetite のような「求める」側と、feather・helicopter・hippopotamus のような「飛ぶ・走る」側が分かれたと推定されています。ただし辞書もこの範囲は推定として扱っているため、断定はできません。
まとめ
competent は com(一緒に)+ pet(向かう・求める)+ ent で、「求められる水準とぴったり噛み合っている」。
- 語源・中心・・・competere=「出会う・一致する」。意味の芯は「ちょうど噛み合う」
- 年代の逆転・・・competent(14世紀末)は compete(1610年代)より200年以上先輩
- 使い方の注意・・・competent は「合格ライン」。優秀の意味ではなく、ほめ言葉としては弱い
- 現役の専門用法・・・competent court/the competent authority は「権限がある」
- 遠い親戚・・・feather/pen/helicopter/hippopotamus/symptom(印欧祖語 *pet- の推定)

- 語源・中心:com(一緒に)+pet(求める・向かう)+ent =「ぴったり噛み合っている」
- 覚え方のヒント:コンピテンシーは「競う力」ではなく「要求と噛み合う力」
- 派生語:competence/competency/competently/incompetent/incompetence/core competency
- 意味の広がり:有能な/適格な/(法)権限のある/(古)暮らしに足りる
- 遠い親戚(推定):feather/pen/helicopter/pterodactyl/hippopotamus/symptom
competent は、飛び抜けていなくてもいい。求められていることと、自分のできることが噛み合っていればいい・・・そう考えると、少し肩の力が抜ける単語でもあります。
関連記事(内部リンク)
- 【語源で覚える】competition|隠れた “pet” は appetite(食欲)と同じ「求める」
- 【語源で覚える】petition|「食欲(appetite)」や「競争」と同じ、あの語根って何?
- appetite の語源(食欲と pet)→ (近日中に公開)
- 英単語の語源・パーツ分解 全リスト
翻訳練習の解答
- 彼女は、きちんと仕事のできる看護師だ。
- あなたは、自分で思っているよりも力がある。
- その裁判所には、この件を審理する権限がない。
- 彼の演技はそつがなかったが、心には残らなかった。
- 完璧でなくても、求められる水準は満たせる。
- 私たちのチームは、データ分析の力が足りない。
- 有能な管理職は、決める前にまず聞く。
- あなたは、あの苦情にきちんと対応した。
- お住まいの国の所管当局にご連絡ください。
- 静かに続けた何年もの練習が、確かな力になった。


