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【語源で覚える】competent|コンピテンシーの competent は、compete(競う)より200年も先輩だった

著者情報
【著者:鈴木一世(イッセー)】

現役大学教員・カウンセラー。
  専門の「第二言語習得理論」と「心理学」に基づき、氷河期世代・非正規雇用・転職に関わるリスキリング戦略をデータで解説。挫折しそうな人のための、脳と心の攻略ガイド。  

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人事評価で「コンピテンシー(competency)」という言葉を聞いたことがあると思います。能力、行動特性、職務遂行力・・・会社によって訳し方はバラバラですが、だいたい「仕事ができること」の意味で使われています。

この competency、もとは形容詞 competent(コンピテント)です。そして competent をじっと見ると、真ん中あたりに compete(競う)が隠れているように見える。だから「コンピテンシー=競争力のこと」と思っている人は、けっこう多いはずです。

ところが、ここに大きなズレがあります。competent が英語に入ったのは14世紀末。compete が入ってきたのは1610年代です。つまり competent のほうが200年以上も先輩で、compete が生まれる前から英語にいた言葉なんです。

では competent は何を意味していたのか。答えは「競う」ではなく、「ちょうど釣り合っている・求められる水準に届いている」でした。この記事では、その「釣り合い」の感覚をつかみます。

なお competent は NAWL(学術語彙リスト)と BSL(ビジネス語彙リスト)に収録されている単語です。論文でも社内文書でも出てくる、押さえておきたい一語です。

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competent を分解してイメージで覚える|意味の中心は「ぴったり噛み合う」

competent はラテン語 competere から来ています。パーツはこうです。

com(一緒に・共に)+ pet(petere=求める・向かっていく)+ ent(〜している)

直訳すると「一緒に向かっていっている状態」。ここから古典ラテン語の competere は「出会う・一致する・噛み合う」、そして「資格がある」という意味で使われていました。

イメージは、歯車です。こちらの歯と相手の歯が、ズレもガタつきもなくカチッと噛み合っている・・・その「噛み合っている感じ」が competent の意味の中心です。

求められている水準と、その人の実力。この2つが噛み合っていれば competent。噛み合っていなければ incompetent。シンプルな構図です。

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competent の基本の意味と使い方

competent は「有能な、きちんとできる、適格な」を表す形容詞です。

  • a competent engineer(きちんと仕事のできるエンジニア)
  • competent staff(必要な力を備えたスタッフ)
  • be competent to do ~(~する能力・資格がある)
  • be competent in / at ~(~の分野で力がある)

文型で気をつけたいのは、うしろの形です。competent は to不定詞か in / at を取ります。of は取りません。

○ She is competent to handle the negotiation.
× She is competent of handling the negotiation.

competent は「優秀」ではない|ほめ言葉として弱い理由

ここが日本人学習者のつまずきどころです。competent を「優秀な」と訳して覚えると、使うときに事故が起きます。

competent の意味は「要求水準をきちんと満たしている」。つまり合格ラインには達している、けれどそれ以上は言っていない、という言葉なんです。

Merriam-Webster も competent を「問われることなく、すべての要件を満たしている」という方向で説明しています。要件は満たす。そこまで。

だから a competent performance と言うと、「破綻はないが、心を動かされはしなかった」というニュアンスになりがちです。英語圏では、ほめているようで実はほめていない表現・・・いわゆる「控えめなけなし方」として働くことがあります。

本気でほめたいときは excellent、outstanding、exceptional あたりを使ってください。逆に、ミスの多い相手に対して「最低限はできている」と中立に言いたいときには competent がちょうどいい。

この温度感も、語源の「ちょうど噛み合っている」から素直に出てきます。噛み合っているだけで、飛び抜けてはいない。

compete(競う)のほうが後輩だった|年代で見る逆転

ここで冒頭の話に戻ります。年代順に並べると、こうなります。

語英語に入った時期そのときの意味
competent14世紀末ふさわしい、十分な、適格な
competency1590年代暮らしていくのに足りること
competition1600年同じものを同時に得ようとする行為
compete1610年代競争関係に入る
incompetent1610年代不十分な

competent がいちばん古い。compete はいちばん新しい部類です。

なぜこうなるか。ラテン語 competere は、古典期には「出会う・一致する・資格がある」でした。「一緒に何かを目指して張り合う」という競争寄りの意味は、後期ラテン語になってから育った枝なんです。

英語は、先に「一致する・ふさわしい」の枝を competent という形で受け取り、ずっとあとになって「張り合う」の枝を compete として受け取った。同じ木の、別の時期に伸びた枝を、別々のタイミングで持ってきたわけです。

おまけの話をひとつ。compete は17世紀にはほとんど使われず、18世紀末に復活した言葉です。OED によれば、19世紀初めのイギリスでは「スコットランド語かアメリカ語」と見られていた時期もありました。今では競争社会の中心語なのに、意外な経歴です。

「a competence」が「十分な収入」だった時代

もうひとつ、知っておくと英文学が読みやすくなる話を。

competence には1630年代から「不自由なく暮らせるだけの資力」という意味がありました。名詞で a competence と言えば、能力ではなく「暮らしていける程度の収入」のことだったんです。

ジェイン・オースティンの『分別と多感』(1811年)に、まさにこの用法が出てきます。マリアンとエリナーが、お金はどれくらいあれば十分かを語り合う場面です。エリナーは、あなたの言う competence と私の言う wealth は似たようなものでしょうね、と笑う。ここでの competence は「必要を満たすだけの額」という意味です。

「ちょうど足りている」という語源の芯が、お金の話にもそのまま出ているのがわかります。能力でも収入でも、competent は「足りている」なんです。

現代ではこの用法はほぼ使われませんが、19世紀以前の小説を読むときの引っかかりが一つ減ります。

法律とビジネスの competent|「権限がある」という顔

competent にはもう一つ、現代でも現役の専門的な顔があります。「法的な資格・権限がある」です。

  • a competent court(管轄権のある裁判所)
  • the competent authority(所管官庁、権限ある当局)
  • competent evidence(証拠能力のある証拠)
  • competent to stand trial(訴訟能力がある)

この法律用語としての用法は1708年には記録があります。ここでも意味は同じで、「その案件とその機関が、きちんと噛み合っている」。能力の話というより、対応関係の話です。

契約書や規約の英文で the competent authority が出てきたら、「有能な当局」ではなく「所管する当局」。ここを誤訳すると文書全体の意味が変わるので、実務では要注意の一語です。

遠い親戚|feather・helicopter・hippopotamus

competent のうしろ半分 pet は、ラテン語 petere(求める、襲いかかる)。その奥には、印欧祖語の根 *pet-(突進する・飛ぶ)があると推定されています。

petition や appetite といった「求める」側の一族は、別記事(competition)でまとめてあります。ここでは、同じ根から「飛ぶ」側に伸びたほうの枝を見てください。綴りが競争とまったく重ならないので、知っていると気持ちがいい並びです。

語意味つながり
feather羽根ゲルマン語経由で *pet-(飛ぶ)へ
penペンラテン語 penna(羽根)=羽根ペンから
helicopterヘリコプターhelico(らせん)+ pter(ギリシャ語 pteron=翼)
pterodactyl翼竜ptero(翼)+ dactyl(指)
hippopotamusカバhippo(馬)+ potamos(川=流れ走る水)
symptom症状syn(共に)+ piptein(落ちる)=一緒に降りかかるもの

ヘリコプターの話は面白いので一つだけ。helicopter の正しい切れ目は heli+copter ではなく、helico+pter です。ヘリポート(heliport)の heli- は、本来の切れ目を無視して切り出された新しいパーツなんです。「翼(pter)」が消えてしまった、ちょっと気の毒な略し方といえます。

なお、この印欧祖語レベルのつながりは再構された推定であり、辞書も「含まれるかもしれない」という書き方をしています。断定ではなく、そういう見立てがある、という距離感で覚えてください。

派生語|competent の Word Family

単語品詞意味発音
competent形容詞有能な、適格な、権限のあるコンピテント /ˈkɑːmpɪtənt/
competently副詞きちんと、過不足なくコンピテントリー /ˈkɑːmpɪtəntli/
competence名詞能力、適性、権限コンピテンス /ˈkɑːmpɪtəns/
competency名詞能力、(人事)コンピテンシーコンピテンシー /ˈkɑːmpɪtənsi/
incompetent形容詞無能な、不適格なインコンピテント /ɪnˈkɑːmpɪtənt/
incompetence名詞無能、不適格インコンピテンス /ɪnˈkɑːmpɪtəns/
core competency名詞句中核的な強みコアコンピテンシー

competence と competency は、もともとほぼ同じ意味の二重語です。現代では、competence が「能力があるという状態」全般、competency が「評価項目として切り出された個別の能力」という方向で使い分けられることが多くなっています。人事の文脈で competencies と複数形になるのは、後者の用法です。

ちなみに、人事用語としてのコンピテンシーが広まったきっかけは、心理学者デイヴィッド・マクレランドが1973年に発表した論文「知能ではなく、コンピテンスを測れ」でした。学力テストや知能テストより、実際に成果を出している人の行動特性を見るべきだ、という主張です。

「競争力を測る」話ではなく、「要求される仕事と、その人の行動がきちんと噛み合っているかを測る」話だった。語源どおりの中身だったわけです。

TOEIC・英検での出題傾向

competent は TOEIC の Part 5・6 の語彙問題や、求人・人事関連の文書でよく見かけます。

  • competent staff / a competent candidate(人材の評価)
  • be competent to approve the request(権限の有無)
  • the competent authority(契約書・規約の定型表現)
  • core competencies(企業紹介、経営の文脈)

空所補充では、capable・qualified・efficient あたりと並べられることがあります。ざっくりした使い分けの目安はこうです。

  • competent・・・求められる水準を満たしている
  • capable・・・やろうと思えばできる潜在的な力がある
  • qualified・・・資格や学歴など、形式の要件を満たしている
  • efficient・・・無駄なく速い

英検では準1級あたりで出会う語です。incompetent とセットで覚えておくと、長文で迷いません。

英文で確認|翻訳練習10問

英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。

  1. She is a competent nurse.
  2. You are more competent than you think.
  3. The court is not competent to hear this case.
  4. He gave a competent but forgettable performance.
  5. You do not have to be perfect to be competent.
  6. Our team lacks competence in data analysis.
  7. A competent manager listens before deciding.
  8. You handled that complaint in a competent way.
  9. Please contact the competent authority in your country.
  10. Years of quiet practice turned into competence.

語源メモ|competere が分けた二つの枝

competent は14世紀末、古フランス語 competent(十分な、ふさわしい)から、またラテン語 competentem(competere の現在分詞)から英語に入りました。最初の意味は「ふさわしい、要件を満たしている、十分な」。「能力がある」という意味が記録されるのは1640年代です。

ラテン語 competere は com(一緒に)+ petere(求める、向かう)。古典ラテン語では「出会う、一致する、資格がある」、後期ラテン語で「共に目指す、張り合う」の意味が加わりました。英語はこの二つの枝を別々の時代に受け取ります。先に competent(14世紀末)、ずっとあとに competition(1600年)と compete(1610年代)です。

名詞 competency は1590年代、competence は1630年代。どちらも最初は「暮らしに足りるだけの資力」を指し、「十分な能力」の意味は competence が1790年、competency が1797年に記録されています。incompetent は1610年代、in(否定)+ competent です。

petere の奥にある印欧祖語 *pet-(突進する・飛ぶ)からは、petition・appetite のような「求める」側と、feather・helicopter・hippopotamus のような「飛ぶ・走る」側が分かれたと推定されています。ただし辞書もこの範囲は推定として扱っているため、断定はできません。

まとめ

competent は com(一緒に)+ pet(向かう・求める)+ ent で、「求められる水準とぴったり噛み合っている」。

  • 語源・中心・・・competere=「出会う・一致する」。意味の芯は「ちょうど噛み合う」
  • 年代の逆転・・・competent(14世紀末)は compete(1610年代)より200年以上先輩
  • 使い方の注意・・・competent は「合格ライン」。優秀の意味ではなく、ほめ言葉としては弱い
  • 現役の専門用法・・・competent court/the competent authority は「権限がある」
  • 遠い親戚・・・feather/pen/helicopter/hippopotamus/symptom(印欧祖語 *pet- の推定)
competent の語源ワードマップ。中心は competent(有能な・適格な=求められる水準とぴったり噛み合っている)で、com(一緒に)+pet(求める・向かう)+ent に分解。語源・中心(com/pet/ent/competere=出会う・一致する)、覚え方のヒント(コンピテンシーは「競う力」ではない/compete より200年先輩/意味の芯は噛み合う)、派生語(competence/competency/competently/incompetent/core competency)、遠い親戚(feather/pen/helicopter/hippopotamus/symptom)の4クラスタに整理した図。
  • 語源・中心:com(一緒に)+pet(求める・向かう)+ent =「ぴったり噛み合っている」
  • 覚え方のヒント:コンピテンシーは「競う力」ではなく「要求と噛み合う力」
  • 派生語:competence/competency/competently/incompetent/incompetence/core competency
  • 意味の広がり:有能な/適格な/(法)権限のある/(古)暮らしに足りる
  • 遠い親戚(推定):feather/pen/helicopter/pterodactyl/hippopotamus/symptom

competent は、飛び抜けていなくてもいい。求められていることと、自分のできることが噛み合っていればいい・・・そう考えると、少し肩の力が抜ける単語でもあります。

関連記事(内部リンク)

翻訳練習の解答

  1. 彼女は、きちんと仕事のできる看護師だ。
  2. あなたは、自分で思っているよりも力がある。
  3. その裁判所には、この件を審理する権限がない。
  4. 彼の演技はそつがなかったが、心には残らなかった。
  5. 完璧でなくても、求められる水準は満たせる。
  6. 私たちのチームは、データ分析の力が足りない。
  7. 有能な管理職は、決める前にまず聞く。
  8. あなたは、あの苦情にきちんと対応した。
  9. お住まいの国の所管当局にご連絡ください。
  10. 静かに続けた何年もの練習が、確かな力になった。