「ID(アイディー)」は、もう日本語ですよね。IDカード、ID番号、社員ID。
ではこの ID、何の略かご存じでしょうか。答えは identification。長くて覚えにくそうな単語ですが、正体はあの ID です。そして identification の意味の中心にあるのは、ちょっと意外な一語・・・「同じ」なんです。
身分証明書は、目の前にいるあなたと、記録に残っている人物が「同じ」だと示すためのもの。そう言われると、急に腑に落ちませんか。
もうひとつ、日本語になっている例を。UFO。Unidentified Flying Object の頭文字です。真ん中の I は、identified。つまり UFO とは「まだ”同じ”だと確認できていない飛行物体」。宇宙人の乗り物という意味は、実はどこにも入っていません。
identification を分解してイメージで覚える
パーツで見ると、こうなります。
ident(同じ)+ fic(作る・する)+ ation(〜すること)
直訳すると「同じだと示すこと」。身元を確認するのも、原因を特定するのも、「これとこれは同じだ」と結びつける作業です。
真ん中の fic は factory(工場)や fact(事実)と同じ「作る・する」のグループ。ここは手がかりとしては置いておいて、この記事の中心は前半の ident です。
ident は、ラテン語 idem(同じ)から来ています。そして idem をさらに割ると、id(それ)+ -dem。「それ、まさにそれ」というニュアンスが固まって、「同じ」になりました。
ident=「同じ」を一発で確定させる単語
語源の話が本当かどうか、一語で確かめられます。
identical(まったく同じ、同一の)
そして identical twins ・・・一卵性双生児。遺伝的に「同じ」双子です。ここで ident が「同じ」だと、頭の中で確定します。
逆向きの語も見ておきましょう。
unidentified(未確認の)= un(〜でない)+ identified(同じだと確認された)
UFO の I が、ここでつながります。
基本の意味と使い方
identification は名詞で、大きく3つの顔を持っています。
① 身元確認・身分証明(書)
- Please bring photo identification.(写真付きの身分証をお持ちください)
- an identification card(身分証明書)
② 特定・識別
- the identification of the cause(原因の特定)
- early identification of a problem(問題の早期発見)
③ 同一視・感情移入
- identification with the main character(主人公への感情移入)
③ は心理学で使われる意味で、「あの人と自分を重ねる」こと。語源の「同じ」が、いちばん素直に残っている使い方かもしれません。
使い分け|identity・identify・identification・ID
同じ家族なので、形と役割だけ整理しておくと迷いません。
| 語形 | 品詞 | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| identity | 名詞 | 同一性、身元、アイデンティティ | identity theft(なりすまし) |
| identify | 動詞 | 特定する、同一視する | identify the cause |
| identification | 名詞 | 特定すること、身分証明(書) | show identification |
| ID | 略語 | 身分証(明書) | a photo ID |
話し言葉では ID、書類や案内文では identification。TOEIC の案内文で長い方が出てくるのは、このためです。
id(それ)でつながる単語ネットワーク
ident の元をたどると id(それ) にたどり着きます。この一字から、思いがけない方向へ枝が伸びています。
| 単語 | 意味 | つながり |
|---|---|---|
| identical | まったく同じ | idem〈同じ〉+-ical |
| identity | 同一性、身元 | idem〈同じ〉+-ity |
| identify | 特定する、同一視する | identity から作られた動詞 |
| identifiable | 識別できる | identify+-able |
| unidentified | 未確認の | un〈否定〉+identified |
| misidentify | 誤認する | mis〈誤って〉+identify |
| item | 項目、品物 | id〈それ〉+-tem=「同様に」 |
| itemize | 項目別に書き出す | item+-ize |
| i.e. | すなわち | ラテン語 id est〈それは〜である〉の略 |
| id | (心理学の)エス | ラテン語 id〈それ〉そのもの |
中級者向け|item が親戚だと気づけますか
いちばん意外なのが、item です。中学で習う「項目」「品物」、ゲームの「アイテム」。あれが identification の親戚だと言われても、ピンと来ないはずです。
item はもともと名詞ではなく、ラテン語の副詞で「同様に、さらに」という意味でした。
昔の請求書や目録では、品物を一つ書き、次の行でまた「item(同様に、次も)」、その次も「item」・・・と繰り返していました。やがてその書き出しの語そのものが「一行ぶんの品物」を指すようになり、16世紀後半に「品物・項目」という名詞が生まれます。
つまり id(それ) という同じ出発点から、
- idem =「同じ」→ identity・identical・identification
- item =「同様に」→ 項目・品物
の二方向に分かれた、ということ。兄弟というよりいとこの関係です。
ついでに i.e.(すなわち)も同じ一族。ラテン語 id est(それは〜である)の略で、頭の i はやはり id です。
心理学の id(エス)も、同じ id
フロイトの用語「エス(id)」も、ラテン語の id そのものです。もとのドイツ語は das Es(それ)。1924年の英訳でラテン語の id が当てられ、そのまま専門用語として定着しました。
自分の中にある、名前のつけられない「それ」。ラテン語の素朴な代名詞が、心の深いところを指す語になったわけです。
派生語|identification まわり
| 単語 | 品詞 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|---|
| identification | 名詞 | 特定、身元確認、身分証明書 | アイデンティフィケイション /aɪˌdentɪfɪˈkeɪʃn/ |
| identify | 動詞 | 特定する、同一視する | アイデンティファイ /aɪˈdentɪfaɪ/ |
| identity | 名詞 | 同一性、身元 | アイデンティティ /aɪˈdentəti/ |
| identical | 形容詞 | まったく同じ | アイデンティカル /aɪˈdentɪkl/ |
| identifiable | 形容詞 | 識別できる | /aɪˈdentɪfaɪəbl/ |
| unidentified | 形容詞 | 未確認の | /ˌʌnaɪˈdentɪfaɪd/ |
TOEIC・英検での傾向
identification は TOEIC の頻出語です。受付・入館・空港・会議の案内といった場面で、Please present identification at the front desk. an identification badge のような形で出ます。会話では ID、掲示や案内文では identification と使い分けられるので、両方セットで覚えておくと安心です。
動詞の identify も identify the cause(原因を特定する)という形でよく出ます。英検では2級〜準1級レベル。難しそうな見た目のわりに、意味は素直な単語です。
英文で確認|翻訳練習10問
英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。
- Please bring photo identification.
- The guard asked for identification at the gate.
- Your identification card is ready at the front desk.
- Identification means showing that two things are the same.
- Correct identification of the problem is half the answer.
- The museum offers free entry with student identification.
- You don’t need identification to be yourself.
- Early identification of your strengths will help you grow.
- Her identification of the bird was quick and sure.
- Identification with a kind person can change you.
語源メモ|id から idem、そして identification へ
さかのぼると、こうなります。
id(それ)→ idem(同じ)→ identitas(同一性)→ identity → identify → identification
- idem は、id「それ」+指示を表す接尾辞 -dem。
- 中世ラテン語の identitas(同一性)がフランス語 identité を経て、1600年ごろ英語の identity になりました。
- 動詞の identify は1640年代。ただし最初の意味は「同じものとみなす」。「身元を確認する」の意味が記録されるのは1769年になってからです。
- identification も1640年代。「特定する行為」の意味が1859年、そして「身元を示す書類・物」という意味はなんと1947年から。identification tag / card の省略です。
- ID という短縮形が記録に現れるのは1955年。意外と新しい言葉なんです。
UFO は1953年、アメリカ空軍が採用した呼び名。それまでの「空飛ぶ円盤(flying saucer)」では形がさまざまな目撃例に当てはめにくいという理由で、より中立的な unidentified flying object に置き換えられました。頭字語として作ったのは、プロジェクト・ブルーブックを率いたエドワード・J・ルペルト大尉とされています。
item については、辞書も「おそらく」と断りを付けています。ラテン語の ita(このように)/id(それ)に副詞語尾 -tem が付いた形と見られ、idem と並べて比較するよう注記されています。idem の直系ではなく、同じ id から分かれた親戚、という理解が正確です。
なお後半の -fication は、ラテン語 facere(作る・する)のグループ。fact・factory・effect・satisfy などと共通する部品です。こちらの一族については、別記事でまとめています。
まとめ
identification は、ident(同じ)+ fic(作る)+ ation で「同じだと示すこと」。
- ID・・・identification の略。「あなたと記録の人物が同じ」と示すもの
- UFO・・・Unidentified。「まだ同じだと確認できていない」
- identical twins・・・ident=「同じ」を確定させる一語
- item・・・同じ id から分かれた、いちばん意外な親戚
身分証明も、原因の特定も、誰かに自分を重ねることも、やっていることは全部「これとこれは同じだ」と結ぶこと。そう考えると、長い綴りが少しだけ身近になります。

- 語源・中心:ident(idem=同じ)+ fic(作る)+ ation =「同じだと示すこと」
- 覚え方のヒント:ID は identification の略/UFO の I は identified
- ident(同じ)一族:identical/identity/identify/identifiable/unidentified/misidentify
- id(それ)から分かれた親戚:item/itemize/i.e.(id est)/id(エス)
関連記事(内部リンク)
- factual の語源(fact=作られたもの)→ https://isseisuzuki.org/factual/
- effect の語源(ex+fect=外に作り出す)→ https://isseisuzuki.org/effect/
- satisfactory の語源(綴りに factory が見える)→ https://isseisuzuki.org/satisfactory/
- 英単語の語源・パーツ分解 全リスト → https://isseisuzuki.org/etymology-parts-list/
翻訳練習の解答
- 写真付きの身分証明書をお持ちください。
- 門のところで、警備員が身分証の提示を求めた。
- あなたの身分証明書は、受付でお受け取りいただけます。
- 身元確認とは、2つのものが同じだと示すことだ。
- 問題を正しく特定できれば、答えは半分出ている。
- その美術館は、学生証があれば入場無料だ。
- 自分らしくいるのに、証明書はいらない。
- 自分の強みに早く気づけたら、それだけ伸びていける。
- 彼女はその鳥を、すばやく確実に見分けた。
- やさしい人に自分を重ねることで、人は変われる。
集録語彙リスト
この単語は NAWL(学術)・TSL(TOEIC)・BSL(ビジネス)のすべて に集録されています。学術・試験・実務のどの場面でも使われる、最優先で覚えたい一語です。
NAWL(New Academic Word List)集録語
この単語は New Academic Word List(NAWL) に集録されています。NAWLは大規模な学術コーパスから抽出された960語のリストで、これらを覚えるだけで学術英語の約92%をカバーできます。論文や英字ニュースを読むとき、必ず出会う一語です。出典:New General Service List Project
TSL(TOEIC Service List)集録語
この単語は TOEIC Service List(TSL) に収録されています。TSLはTOEICの出題語彙を分析して作られた1,200語のリストで、これらを押さえればテストに出る語彙の約99%をカバーできます。スコアアップに直結する一語です。
出典:New General Service List Project
BSL(Business Service List)集録語
この単語は Business Service List(BSL) に集録されています。BSLはビジネス英語のコーパスから抽出された1,700語のリストで、これらを覚えればビジネス文書・会議・メールで使われる語彙の約97%をカバーできます。仕事で英語を使う場面で効いてくる一語です。
出典:New General Service List Project


