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【語源で覚える】mercury|フレディ・マーキュリーの「マーキュリー」は、ローマ神話の伝令神

著者情報
【著者:鈴木一世(イッセー)】

現役大学教員・カウンセラー。
  専門の「第二言語習得理論」と「心理学」に基づき、氷河期世代・非正規雇用・転職に関わるリスキリング戦略をデータで解説。挫折しそうな人のための、脳と心の攻略ガイド。  

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クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリー。あの「マーキュリー」が本名ではなく、本人が選んだ名前だというのは、わりと知られた話です。

では、その Mercury という言葉そのものはどこから来たのか。元をたどると、ローマ神話の神 Mercurius(メルクリウス) にたどり着きます。足が速く、神々の伝言を運ぶ伝令の神・・・旅人と商人、そして泥棒まで守っていた、ちょっと油断ならない神様です。

その神の名前が、太陽にいちばん近い惑星(水星)の名前になり、さらに常温で液体のまま逃げていく金属(水銀)の名前にもなりました。そして一番おもしろいのが、神様の性格そのものが英語の形容詞になって今も生きていることです。

※ この記事は、姉妹編の merchandise(商品) と対になっています。merchandise が「売り買い」側の話なら、こちらは「神様の名前が英語になった」側の話です。

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mercury を分解してイメージで覚える

mercury の中身は、分解というより一人の神様です。

Mercurius(ローマ神話の伝令神)→ 水星 → 水銀

順番が大事です。まず神様がいて、次にその名前が惑星につき、最後に金属についた。

  • 神・・・足が速い。神々の伝言を運ぶ。旅人・商人を守る
  • 惑星・・・太陽に一番近く、空をいちばん速く動く。だから「速い神」の名前がついた
  • 金属・・・常温で液体。つかもうとすると逃げる。速くてとらえどころがない

「速くて、とらえどころがない」。この一本の線が、神から惑星、惑星から金属へとまっすぐ通っています。ここを押さえておけば、mercury の意味は丸暗記しなくても出てきます。

ちなみに英語には、水銀を指すもう一つの言い方 quicksilver があります。古英語の cwicseolfor、直訳すると「生きている銀」。quick は今でこそ「速い」ですが、もとは「生きている」という意味でした(今も the quick and the dead という古い言い回しに残っています)。動き回る液体の金属を見た昔の人が、「これは生きた銀だ」と呼んだわけです。見ている景色は mercury と同じです。

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mercury の基本の意味と使い方

mercury は「水銀」を表す名詞です。元素記号は Hg(ギリシャ語 hydrargyros「液体の銀」から)。大文字の Mercury なら「水星」または「ローマ神話のメルクリウス」を指します。

  • Mercury is the closest planet to the sun.(水星は太陽にいちばん近い惑星だ。)
  • Mercury is liquid at room temperature.(水銀は常温で液体だ。)
  • Old thermometers were filled with mercury.(昔の体温計には水銀が入っていた。)

もう一つ、知っておくと読解で役に立つ使い方があります。the mercury で「気温」を指す言い方です。

  • The mercury hit 35 degrees today.(今日は気温が35度に達した。)

水銀温度計の目盛りが上下する様子から来た言い方で、1750年代から使われています。天気の記事やニュースでよく出てきます。

mercurial|神様の性格が、そのまま形容詞になった

mercury から派生した mercurial が、この単語のいちばんおもしろいところです。意味は「気まぐれな、変わりやすい」、そして「活発な、機転のきく」。

  • He has a mercurial temperament.(彼は気分の変わりやすい人だ。)
  • a mercurial wit(機転のきく、冴えたユーモア)

なぜこの意味になったのか。中世の占星術では、どの惑星のもとに生まれたかで性格が決まると考えられていました。水星のもとに生まれた人は、頭の回転が速く、話がうまく、そして移り気・・・まさに伝令神メルクリウスの性格です。そこから「mercurial=気まぐれで活発」という意味が17世紀に定着しました(水銀そのものの、つかみどころのない性質も後押ししたようです)。

注目したいのは、この語がけなす言葉にも、ほめる言葉にもなることです。mercurial な気分の変わりやすさは困りもの。でも mercurial な才気は魅力になります。訳語を一つに固定せず、文脈で振れる言葉だと思っておくと読み違えません。

神様の名前からできた英単語ネットワーク

mercurial がわかると、同じ作られ方をした単語が一気に見えてきます。ラテン語には「神様の名前+-alis/-inus」で形容詞を作る型があり、それが英語にそのまま入ってきました。

単語意味元になった神・星
mercurial気まぐれな、活発な、機転のきくMercury(水星・伝令神)
martial軍事の、武術のMars(軍神マルス)。martial arts=武術
jovial陽気な、愛想のよいJove=Jupiter(木星・ユピテル)
saturnine陰気な、むっつりしたSaturn(土星。最も遠く、動きが遅い星)
lunatic常軌を逸したLuna(月)。月に当てられた、の意
cereal穀物の、シリアルCeres(穀物の女神ケレス)

jovial(陽気)と saturnine(陰気)が、木星と土星できれいに対になっているのが見えますか。昔の人は、空の星の配置をそのまま人の性格の分類に使っていた。その分類が、今もふつうの英単語として残っているわけです。朝ごはんのシリアルが女神の名前というのも、言われてみないと気づきません。

曜日にも隠れている Mercury

もう一つ、意外なところに Mercury がいます。水曜日です。

ラテン語で水曜日は dies Mercurii(メルクリウスの日)。これがフランス語の mercredi に、スペイン語の miércoles にそのまま残っています。

では英語の Wednesday は。こちらは古英語の wodnesdæg、つまり「Woden(ウォーデン/北欧神話のオーディン)の日」です。ゲルマン人が dies Mercurii を自分たちの神に置き換えて訳した形で、Mercurius に対応する神として Woden が選ばれました(タキトゥスの記録にある同一視ですが、なぜこの組み合わせなのかは今も議論があります)。

そして日本語の「水曜日」は、水星(Mercury)の曜日。フランス語の mercredi も、英語の Wednesday も、日本語の水曜日も、出発点は同じ神様ということになります。

merx(商品)一族との関係

Mercurius という名前そのものは、ラテン語 merx(商品)/mercari(売買する) から来ていると考えられています。商人を守る神だったことと、きれいに重なります。

単語意味
merchandise商品
merchant商人
market市場
commerce商業
mercy慈悲

この merx 一族については、姉妹編の merchandise の記事 でくわしく扱っています。あわせて読むと、「商売の言葉」と「神様の名前」が一本につながります。

派生語|mercury まわり

単語品詞意味発音
mercury名詞水銀マーキュリー /ˈmɜːrkjəri/
Mercury固有名詞水星、ローマ神話のメルクリウスマーキュリー
mercurial形容詞気まぐれな、活発な/水銀のマーキュリアル /mɜːrˈkjʊriəl/
mercurially副詞気まぐれに―
mercuric形容詞第二水銀の(化学)マーキュリック
quicksilver名詞水銀(口語・古風)クイックシルバー

TOEIC・英検での出題傾向

正直に書きます。mercury は TOEIC にはほとんど出ません。ビジネス文書で水銀の話が出る場面が、そもそも少ないからです。

一方で、mercury は学術語リスト(NAWL)に入っている単語です。英検準1級〜1級、TOEFL、大学入試の長文では、環境問題(水銀汚染)・科学・天文のテーマで普通に登場します。読解で止まらないように、「水銀/水星」の二つを押さえておけば十分です。

むしろ覚える価値が高いのは mercurial のほうです。人物描写の形容詞として英字新聞やノンフィクションでよく使われ、英検1級・TOEFL レベルの語彙問題でも狙われます。

英文で確認|翻訳練習10問

英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。

  1. Mercury is the smallest planet in our solar system.
  2. The mercury in the thermometer rose quickly.
  3. Old thermometers used mercury to show the temperature.
  4. Mercury is the only metal that stays liquid at room temperature.
  5. The mercury hit thirty degrees this afternoon.
  6. When the mercury drops, you can finally wear your favorite coat.
  7. Scientists measure mercury levels in rivers and oceans.
  8. Mercury was named after the fast messenger of the Roman gods.
  9. Like mercury, your mood can change quickly, and that is perfectly normal.
  10. You move like mercury: quick, bright, and hard to hold back.

語源メモ|Mercurius と merx のはなし

英語の Mercury(神・惑星)は12世紀半ばに Mercurie の形で現れ、ラテン語 Mercurius から来ています。金属の mercury は14世紀後半、中世ラテン語 mercurius 経由で入りました。惑星としての Mercury が英語で使われるのは1300年ごろからです。

Mercurius という名前の出どころについては、二つの説が並んでいます。一つは、ラテン語 merx(商品、属格 mercis)/mercari(売買する) から来ているという説。もう一つは、エトルリア語から入った名前が merx の影響を受けたという説(Klein、Tucker)。De Vaan は、*merk- という語幹ごと神の名前と一緒に借用された可能性を挙げています。つまり「merx が先か、神の名前が先か」は、今も決着していません。商業と結びついた神であることは確かですが、merx 由来と言い切るのは避けておくのが安全です。

一方、Mercurius から水星・水銀・mercurial が生まれた流れのほうは、はっきりしています。mercurial は14世紀末に「水星の影響下にある」という占星術の意味で英語に入り、1590年代に「神メルクリウスのような」の意味が加わり、1640年代に「陽気で活発、移り気で素早い」という今の意味になりました。

なお、ギリシャ神話の Hermes(ヘルメス) はメルクリウスと同一視される神ですが、名前の語源としては無関係です。Hermes はギリシャ語で、語源不詳とされています。ローマ人が「うちのメルクリウスはギリシャで言うヘルメスだ」と対応づけただけで、言葉の血筋は別・・・ここは混同されやすいので、覚えておくと得です。

フレディ・マーキュリーについても一言。本名は Farrokh Bulsara。自作曲「My Fairy King」の歌詞に出てくる Mercury という語から取って芸名にした、とブライアン・メイが証言しています(本人は占星術好きで、別の由来を語った記録もあり、説は一つに定まっていません)。いずれにせよ、速くて、まばゆくて、つかみどころがない・・・あの歌い手にこれ以上ない名前だったことは確かです。

まとめ

mercury は、ローマ神話の伝令神 Mercurius の名前が、そのまま惑星(水星)と金属(水銀)になった言葉。

  • 神 → 惑星 → 金属・・・「速くて、とらえどころがない」の一本でつながる
  • mercurial・・・神の性格がそのまま形容詞に。「気まぐれな」「活発な」の両方で使う
  • 神様の名前からできた形容詞一族・・・martial/jovial/saturnine/lunatic/cereal
  • 水曜日・・・mercredi も Wednesday も日本語の「水曜日」も、出発点は同じ神様

つかもうとすると逃げる。でも、だからこそ速い。mercury は、そういう言葉です。

mercury の語源ワードマップ。中心は mercury(=速くて、とらえどころがない)で、ローマの伝令神 Mercurius から水星・水銀へと広がった流れを図示。神の名前からできた形容詞(mercurial / martial / jovial / saturnine / lunatic / cereal)、merx(商品)系(merchandise / merchant / market / commerce / mercy)、覚え方のヒント(フレディ・マーキュリー、水曜日=メルクリウスの日、quicksilver=生きている銀)の4クラスタに整理した図。
  • 語源・中心:Mercurius(ローマの伝令神)=「速くて、とらえどころがない」
  • 覚え方のヒント:フレディ・マーキュリーと同じ Mercury
  • 神の名前からできた形容詞:mercurial/martial/jovial/saturnine/lunatic/cereal
  • merx(商品)一族:merchandise/merchant/market/commerce/mercy

関連記事(内部リンク)

翻訳練習の解答

  1. 水星は、太陽系でいちばん小さい惑星だ。
  2. 温度計の水銀が、ぐんぐん上がった。
  3. 昔の体温計は、温度を示すのに水銀を使っていた。
  4. 水銀は、常温で液体のままでいる唯一の金属だ。
  5. 今日の午後、気温は30度まで上がった。
  6. 気温が下がれば、やっとお気に入りのコートが着られる。
  7. 科学者たちは、川や海の水銀の量を測っている。
  8. 水星は、ローマ神話の足の速い伝令神にちなんで名づけられた。
  9. 水銀のように、気分がころころ変わることもある。それでいいんです。
  10. あなたは水銀のように動く。速くて、まばゆくて、止められない。

NAWL(New Academic Word List)集録語

この単語は New Academic Word List(NAWL) に集録されています。NAWLは大規模な学術コーパスから抽出された960語のリストで、これらを覚えるだけで学術英語の約92%をカバーできます。論文や英字ニュースを読むとき、必ず出会う一語です。出典:New General Service List Project