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【語源で覚える】fasten|ファスナーの fast は「速い」じゃない

著者情報
【著者:鈴木一世(イッセー)】

現役大学教員・カウンセラー。
  専門の「第二言語習得理論」と「心理学」に基づき、氷河期世代・非正規雇用・転職に関わるリスキリング戦略をデータで解説。挫折しそうな人のための、脳と心の攻略ガイド。  

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カバンや上着の「ファスナー」。あれは英語の fastener から来たカタカナ語です(日本語としての初出は1950年代)。つまり、もとをたどれば fasten という動詞にたどりつきます。

ここで多くの人が引っかかります。「fast って、ファストフードの”速い”でしょう? ファスナーが速い?」・・・いいえ。fast には、もうひとつ別の意味があります。むしろ、そちらのほうが古くからの本来の意味です。

fast=しっかり固定された、びくともしない。

ファスナーは「速く留める道具」ではなく、「しっかり留める道具」。そして fasten は、その fast から生まれた子どもの単語です。ここが腑に落ちると、steadfast も breakfast も colorfast も、一本の線でつながります。

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fasten を分解してイメージで覚える|fast から生まれた子ども

fasten は、きれいに2つに割れます。

fast(しっかり固定された)+ -en(〜の状態にする)

この -en は、形容詞を動詞に変える働きをします。中学で習う単語に、同じ形がずらりと並んでいます。

  • wide(広い)→ widen(広くする)
  • strong(強い)→ strengthen(強くする)
  • hard(硬い)→ harden(硬くする)
  • short(短い)→ shorten(短くする)
  • sharp(鋭い)→ sharpen(鋭くする)
  • soft(柔らかい)→ soften(柔らかくする)

この並びに置けば、答えは自動的に出ます。fasten=「fast な状態にする」=しっかり固定する、留める。

つまり fasten は、fast の意味をそのまま動詞にしただけの、素直な単語なんです。やっかいなのは、親である fast のほうが「速い」という有名な意味を後から手に入れて、そちらが前に出てしまったこと。おかげで fasten だけが、昔の意味を抱えたまま取り残されたように見えます。

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fasten の基本の意味と使い方

fasten は「(外れないように)留める、締める、固定する」。ボタン、ベルト、ひも、ドア・・・外れては困るものを、しっかり留める動作です。

  • Please fasten your seat belt.(シートベルトをお締めください)
  • She fastened her coat.(彼女はコートの前を留めた)
  • Fasten the rope to the post.(ロープを柱にくくりつけて)

前置詞の型もシンプルです。

  • fasten A to B・・・AをBに留めつける
  • fasten A together・・・AどうしをまとめてAを留める

反対語は unfasten(外す)。機内アナウンスでもおなじみの、使い勝手のいいペアです。

ひとつ、文章向けの用法も覚えておくと得をします。

  • He fastened his eyes on the screen.(彼は画面に視線を注いだ)

視線を「固定する」。fast=固定のイメージが、そのまま生きている言い方です。

発音の注意:fasten の t は読みません。/ˈfæsən/、カタカナなら「ファスン」。listen・castle・often と同じグループです。綴りに t があるのに読まない・・・この罠は、音読やリスニングで地味に効いてきます。

使い分け|fasten・tighten・secure・zip up

似た日本語訳になる4語を、動作の中身で分けておきます。

単語動作の中身使う場面
fasten外れないように留める(0→1)ボタン、ベルト、留め具全般
tightenすでに留まっているものを締め上げるネジ、ひも、規則
secure固定して安全な状態にする技術文書、ビジネス、荷物の固定
zip upファスナーを閉める日常会話

「留めていないものを留める」のが fasten、「留まっているものをもっと締める」のが tighten。ここさえ押さえれば迷いません。

ついでに、もうひとつ実用的な話を。

日本語の「ファスナー」を英語でそのまま fastener と言うと、たいてい通じません。英語の fastener は「留め具」全般(ボタンもネジもクリップも fastener)。衣類のあれを指すなら、こうです。

  • zipper(アメリカ英語)・・・いちばん普通の言い方
  • zip(イギリス英語)
  • slide fastener・・・説明文・技術文書向け

ちなみに zipper は、1923年にゴム長靴に使われたときの「ジーッ」という音から生まれた、わりと新しい言葉です。

fast(しっかり固定された)でつながる単語ネットワーク

fast の本来の意味を知っていると、バラバラに見えていた単語が一気に並びます。

単語意味イメージ
fastener留め具fasten+-er=しっかり留めるもの
steadfast揺るがない、不動のstead(場所)+fast=その場に固定されている
colorfast色落ちしないcolor+fast=色が固定されている
fastness堅固さ、要塞fast+-ness=固さそのもの
hold fastしっかりつかんで離さないfast は副詞で「しっかりと」
fast asleepぐっすり眠って眠りに固定されている状態
breakfast朝食break+fast(断食)。下で詳しく

breakfast の fast だけ、少し枝が違います。

breakfast は break(破る)+ fast(断食)で、「夜のあいだの断食を破る食事」。15世紀半ばからの言い方です。この「断食する」の fast は、古英語の fæstan という別の動詞で、もとの意味は「しっかり保つ・守る」。そこから「(戒律を)守る→食を断つ」へ進みました。

同じ「固定」の根から出た、隣の枝・・・そう捉えてください。fasten とは兄弟筋で、直系の親子ではありません。

そして、ここからが面白いところです。「固定する」という意味の動詞は、もともと fast の形でも使われていました。ところが「断食する」の fast が強くなって、その座を奪ってしまう。行き場をなくした「固定する」の意味を引き受けたのが・・・fasten です。fasten がわざわざ -en を付けて生まれたのには、こういう事情がありました。

ゲルマン語の親戚もどうぞ。 ドイツ語の fest(固い)、オランダ語の vast(固い)は、fast と同じ家族です。ドイツ語の fest が入った Festung は「要塞」。英語の fastness(要塞)とぴったり重なります。

※ 音楽の「フェス」(festival)はラテン語 festus(祝祭の)由来で、こちらとは無関係です。綴りが似ているだけなので、混ぜないようにしてください。

おまけ:shamefaced の正体

「恥ずかしそうな」という意味の shamefaced。face(顔)に見えますが、もとの形は shamefast(古英語 scamfæst)で、「恥に縛られた・慎みに固い」という意味でした。fast が「速い」の意味に傾いていく中で、意味が通らなくなり、似た音の faced に置き換わったものです。fast が「固定」から離れていった歴史の、生きた証拠です。

派生語|fasten まわり

単語品詞意味発音
fasten動詞留める、締める、固定するファスン /ˈfæsən/
unfasten動詞外す、ゆるめるアンファスン /ʌnˈfæsən/
fastener名詞留め具ファスナー /ˈfæsənər/
fastening名詞留め具、固定(すること)ファスニング /ˈfæsənɪŋ/
fast形容詞・副詞速い/しっかり固定された、しっかりとファスト /fæst/
fastness名詞堅固さ、要塞ファストネス /ˈfæstnəs/
steadfast形容詞揺るがない、忠実なステッドファスト /ˈstedfæst/

TOEIC・英検での出題傾向

fasten は TOEIC Service List 収録の実用語で、試験でも日常でもよく出ます。

出会う場所はだいたい決まっています。

  • 機内・車内アナウンス(Part 4)・・・Please fasten your seat belt.
  • 工場や倉庫の安全指示・・・Fasten the straps before lifting.
  • 取扱説明書・組み立て手順・・・Fasten the two panels together with the included screws.
  • 写真描写(Part 1)・・・fastening a seat belt / fastening a jacket

言い換えで secure が出ることもあります(Secure the load before driving.)。fasten=日常寄り、secure=技術・ビジネス寄り、と覚えておけば選択肢で迷いません。

語源で覚える】secure| “cure” は、あの「治す」と同じでした

英検なら準2級〜2級で出会うレベル。unfasten とセットで押さえておくと安心です。

語源で覚える】secure| “cure” は、あの「治す」と同じでした
secure(安全な)を語源から。中に隠れている cure は、あの「治す」の cure と同じ語源です。se(離れて)+cura(心配)で「心配から離れている」。cure・curious・accurate・manicure へ、separate・secret へ、sure・ensure・insure へ。unsecured と insecure の違い、翻訳練習10問つき。

英文で確認|翻訳練習10問

英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。

  1. Please fasten your seat belt.
  2. She fastened the top button of her coat.
  3. Fasten the rope to the post, and it will hold.
  4. You fastened that shelf well, and it has not moved at all.
  5. The word fasten comes from fast, which once meant “firmly fixed.”
  6. He fastened his eyes on the screen and smiled quietly.
  7. Before you leave, please fasten the gate behind you.
  8. Fasten your seat belt, and go a little farther today.
  9. The two parts are fastened together with one simple clip.
  10. What you fasten to your daily life will stay with you.

語源メモ|fast の「速い」は、あとから来た

fasten は古英語の fæstnian「しっかりさせる、固定する、保証する」にさかのぼります。ゲルマン祖語 *fastinon。親にあたる形容詞 fast は古英語 fæst「しっかり固定された、揺るがない、堅固な、密閉された」で、ゲルマン祖語 *fastu-、さらに印欧祖語 *past-(固い・しっかりした)とされます。

古英語の fæstnian には「婚約させる、誓いを交わす」という意味もありました。約束を固定する、という発想です。中世の handfast(手を取り合って婚約する)も同じ流れで、こちらは古ノルド語にも対応する形があります。

では、「速い」はどこから来たのか。

副詞の fæste は「しっかりと、厳しく」でした。そこから「力強く、勢いよく」へ広がり、やがて「速く」へ。英語の run hard と run fast がほぼ同じ意味になるのと同じ感覚です。古ノルド語 fast(しっかりと、勢いよく)の影響を受けて北欧側で育った語義とされ、おそらく古英語にも芽はあり、遅くとも1200年ごろには確実に使われていました。

つまり、歴史の順番はこうです。

「しっかり固定」(本来)→「勢いよく」→「速い」(後発)

fasten が作られたのは、この分かれ道の手前。だから fasten には、最後まで「速い」の気配が入り込んでいません。ファストフードの fast と、ファスナーの fast は、同じ単語のまったく違う時代の顔なんです。

なお、ドイツ語では fest が「固い」の意味を保ったまま残り、別に育った fast のほうは現在「ほとんど」という意味になっています(古くは「しっかりと、非常に」)。同じ根が、言語ごとにどう転がったかを見比べると、英語の fast の揺れ幅にも納得がいきます。

まとめ

fasten は、fast(しっかり固定された)+ -en(〜の状態にする)で「しっかり留める」。ファスナー(fastener)は、その「しっかり留めるもの」です。

  • fast・・・本来は「しっかり固定された」。「速い」は後から生まれた意味
  • -en・・・widen/strengthen/harden と同じ、形容詞を動詞にする働き
  • fasten・・・fast の子ども。だから「速い」の気配がない
  • 広がり・・・fastener/steadfast/colorfast/fastness/breakfast へ

留めたいものがあるとき、人は急ぎません。しっかり留める。fasten は、そういう手つきの単語です。

fasten の語源ワードマップ。中心は fasten(=しっかり留める)で、fast(しっかり固定された)+-en(〜の状態にする)に分解。fast(固定)一族(fastener / steadfast / colorfast / fastness / hold fast / fast asleep)、-en で動詞になる仲間(widen / strengthen / harden / shorten / sharpen / soften)、覚え方のヒント(ファスナーは速い留め具ではなく、しっかり留める道具)の4クラスタに整理した図。
  • 語源・中心:fast(しっかり固定された)+ -en(〜にする)=「しっかり留める」
  • 覚え方のヒント:ファスナー=速い留め具ではなく、しっかり留める道具
  • fast(固定)一族:fastener/steadfast/colorfast/fastness/hold fast/fast asleep
  • -en(動詞化)の仲間:widen/strengthen/harden/shorten/sharpen/soften

TSL(TOEIC Service List)収録語

この単語は TOEIC Service List(TSL) に収録されています。TSLはTOEICの出題語彙を分析して作られた1,200語のリストで、これらを押さえればテストに出る語彙の約99%をカバーできます。スコアアップに直結する一語です。出典:New General Service List Project

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翻訳練習の解答例

  1. シートベルトをお締めください。
  2. 彼女はコートのいちばん上のボタンを留めた。
  3. ロープを柱にくくりつけて。それで持ちこたえる。
  4. あの棚、しっかり留めましたね。まったく動いていません。
  5. fasten という語は、かつて「しっかり固定された」を意味した fast から来ている。
  6. 彼は画面に目を向けたまま、静かに微笑んだ。
  7. 出かける前に、門を閉めておいてくださいね。
  8. シートベルトを締めて、今日は少し遠くまで。
  9. その2つの部品は、クリップ1つで留められている。
  10. あなたが毎日の暮らしに結びつけたものは、ずっと残ります。