ネットの契約で必ず出てくる「プロバイダー」。あの provider は、動詞 provide(提供する)に -er がついただけの言葉です。ここまでは、言われてみれば当たり前ですよね。
では、ジャズや演劇で使う「インプロヴィゼーション(improvisation)」はどうでしょう。即興演奏、即興芝居、略して「インプロ」。台本も譜面もなしで、その場でやる、あれです。
この2つ、実は同じ家族です。しかも、ただの親戚ではありません。正反対の意味を背負った兄弟なんです。
provide を分解してイメージで覚える
provide をパーツで見ると、こうなります。
pro(前もって・先を)+ vide(videre=見る)
「先を見ておく」。そこから「見越して用意する」、さらに「提供する・支給する」へと移っていきました。
日本語の「備える」も、よく見れば「予(あらかじ)め」の感覚が入っていますよね。先が見えているから、手を打っておける。provide の意味の中心は、この「見てから、用意する」という順番にあります。
※ vide(videre=見る)のつながりは、video・vision・evident・revise・supervise など広い一族を持っています。その全体像は evident と revise の記事で詳しく扱っているので、この記事では provide 自身から枝分かれした単語たち に絞って見ていきます。
provide の基本の意味と使い方
provide は「提供する・供給する・用意する」を表す動詞です。
- The school provides free lunch.(その学校は無料の昼食を提供している)
- provide A with B(AにBを提供する)
- provide B for A(AのためにBを用意する)
この2つの型は、TOEIC でそのまま問われます。with のあとに来るのが「モノ」、for のあとに来るのが「人」・・・と覚えるとずれません。
もうひとつ、provide for A で「Aを扶養する・Aの生活を支える」という使い方があります。
- He works hard to provide for his family.(彼は家族を養うために懸命に働いている)
これも「先を見て用意しておく」から自然に伸びた意味です。目の前にモノを出すだけでなく、この先ずっと困らないようにしておく。そういう時間の幅を持った単語なんです。
インプロヴィゼーションは「予見しなかった」こと
ここが、この記事のいちばん面白いところです。
improvise(即興でやる)を分解すると、こうなります。
im(in=〜でない)+ provis(provisus=予見された)
provisus は、ラテン語 providere(先を見る・備える)の過去分詞。つまり「予見された・用意された」です。そこに否定の im がついて、「予見されていない」「前もって準備されていない」。
これが improvise の正体です。ラテン語 improvisus は「思いがけない・不意の」という意味の形容詞でした。
| 分解 | 意味 | |
|---|---|---|
| provide | pro(先を)+ vide(見る) | 先を見て用意する |
| improvise | im(否定)+ provis(予見された) | 予見せずにその場で対応する |
同じ語根から生まれて、片方は「準備する」、もう片方は「準備なしでやる」。ここまできれいに裏返った兄弟は、英語の中でもそう多くありません。
ジャズのインプロヴィゼーションが「譜面という備えを持たずに演奏すること」だと思うと、カタカナのまま覚えていた言葉が、急に輪郭を持ちませんか。
ちなみに英語に入った順番は、名詞の improvisation が先(1786年、フランス語経由)で、動詞の improvise は少し遅れて1808年、イタリア語経由です。もともとイタリアには即興詩人(improvisatore)という職業的な存在がいて、その文化ごと英語に輸入された言葉でした。
provide から広がる単語ネットワーク
provide を起点に、意外なほど多くの単語が枝分かれしています。
| 単語 | 意味 | 分解とイメージ |
|---|---|---|
| provider | 提供者・プロバイダー | provide する人・会社 |
| provision | 供給、備え、法律の条項 | 前もって用意しておくこと |
| provisional | 暫定的な・仮の | とりあえず用意しただけ |
| proviso | 但し書き・条件条項 | 「〜という条件で」の決まり文句から |
| provided (that) | 〜という条件で | provide の過去分詞が接続詞に |
| providence | 摂理・神の配慮 | 先を見通す力 |
| provident | 先を見越した・用心深い | 備えのある |
| improvise | 即興でやる | 予見せずに |
| improvisation | 即興・インプロ | 予見しなかったこと |
| purvey | 調達する・供給する | provide の双子(別ルートで英語に) |
いちばん下の purvey は、provide とまったく同じラテン語 providere から生まれた単語です。ただしこちらは古フランス語を通って形が崩れたまま入ってきました。英語には、同じ語源なのに別ルートで入ってきて見た目が違う「双子(二重語)」がいくつもありますが、provide と purvey はその典型例です。
purvey は今では堅い語で、purveyor(御用達業者)という形で看板などに残っています。日常で使う機会はほぼありませんが、「あ、provide の古い兄だな」と見当がつけば十分です。
provision が持つ三つの顔
provide まわりで、いちばん使い回しの効くのが provision です。この単語は、歴史の順番どおりに意味を増やしてきました。
1. 備え・用意(14世紀後半)
いちばん古い意味は「先見・用心」。つまり provide の名詞形そのものです。会計で使う「引当金」も、将来の損失に備えて計上しておくお金ですから、この原義どおり。
2. 法律の条項(15世紀後半)
契約書や法律の「条項」。これも「あらかじめ定めておいたこと」という発想です。
- The contract includes a provision about overtime.(その契約書には残業に関する条項がある)
3. 食料(1600年ごろ)
provisions と複数形になると「食料・糧食」。航海や遠征のために積み込んだ備えが、そのまま食料そのものを指すようになりました。
| 時期 | 意味 |
|---|---|
| 14世紀後半 | 先見・用心・備え |
| 15世紀半ば | 供給されたもの |
| 15世紀後半 | 法律の条項 |
| 1600年ごろ | 食料(provisions) |
IT の現場で使う「プロビジョニング(provisioning)」も、この一族。サーバーやアカウントを、必要になる前に用意しておく作業のことです。カタカナで覚えていた業務用語が、実は「備える」の原義そのままだった、というわけですね。
但し書きの proviso と、接続詞の provided
契約書を読んでいると、proviso(但し書き)という言葉に出会います。
これはラテン語の決まり文句 proviso quod(〜ということが定められた上で)から来ています。中世の法律文書で、条件を示す条項の書き出しに必ず置かれていた一語が、そのまま名詞として独立しました。
そして、この proviso の英語版が provided (that) です。
- You can leave early, provided that you finish the report.(レポートを終わらせるなら、早く帰っていい)
provide の過去分詞が、そのまま「〜という条件で」という接続詞になっている。TOEIC Part 5 でも、if との言い換えとして顔を出します。providing (that) も同じ意味で使えます。
「提供する」という訳語だけで provide を覚えていると、この用法は完全に別単語に見えてしまいます。でも「あらかじめ定めておく」という原義を押さえていれば、ちゃんと一本の線でつながります。
派生語|provide まわり
| 単語 | 品詞 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|---|
| provide | 動詞 | 提供する・用意する | プロヴァイド /prəˈvaɪd/ |
| provider | 名詞 | 提供者・供給業者 | プロヴァイダー /prəˈvaɪdər/ |
| provision | 名詞・動詞 | 供給・備え・条項/供給する | プロヴィジョン /prəˈvɪʒən/ |
| provisional | 形容詞 | 暫定的な・仮の | プロヴィジョナル /prəˈvɪʒənl/ |
| provided | 接続詞 | 〜という条件で | プロヴァイディッド /prəˈvaɪdɪd/ |
| provident | 形容詞 | 先を見越した・倹約的な | プロヴィデント /ˈprɑːvɪdənt/ |
| providence | 名詞 | 摂理・神の配慮 | プロヴィデンス /ˈprɑːvɪdəns/ |
| proviso | 名詞 | 但し書き・条件条項 | プロヴァイゾウ /prəˈvaɪzoʊ/ |
発音で注意したいのが、provide(プロヴァイド)と provision(プロヴィジョン)のずれ。動詞では二重母音だった音が、名詞形では短く「イ」に変わります。revise/revision とまったく同じ変化のしかたです。
providence は、大文字で Providence と書くと「神の摂理」を指します。アメリカ・ロードアイランド州の州都の名前もこれ。17世紀に入植者が「神の導きでたどり着いた土地」という意味を込めて名づけたもので、provide の原義がそのまま地名になっている珍しい例です。
注意点|improve は仲間ではありません
ここでひとつ、引っかかりやすい落とし穴を。
improvise と improve、見た目がよく似ていますよね。「即興でやる」と「改善する」。どちらも im で始まって、pro が続いて、v が入る。同じ家族に見えて当然です。
でも、この2つに語源的なつながりはありません。
improve はアングロ・フランス語の emprouwer(利益に変える)から来た言葉で、その奥にあるのはラテン語 prode(有利な)。「見る」とは何の関係もありません。しかも improve の綴りに v が入ったのは17世紀ごろで、それ以前は u で書かれていました。-prove で終わる他の単語(prove、approve)に引きずられて、今の形に落ち着いただけなんです。
つまり improve は、improvise の顔をしているけれど、血はつながっていない。語源学習では、こういう「他人の空似」を見分けられるようになることも、実は大きな収穫です。
TOEIC・英検での出題傾向
provide 系は TOEIC の全パートで顔を出す、出現率の高い単語群です。
Part 5(語彙・文法)
- provide A with B / provide B for A の前置詞選択
- provided (that) を if の言い換えとして選ばせる問題
- provide(動詞)と provision(名詞)の品詞選択
Part 7(長文)
- service provider(サービス提供業者)
- under the provisions of the contract(契約の条項に基づき)
- provisional schedule(暫定スケジュール)
英検では準2級から2級あたりで provide が、準1級で provision・provisional が読解に登場します。
覚える優先順位をつけるなら、まず provide の2つの型、次に provided (that)、そのあと provision。improvise は TOEIC での頻度は高くありませんが、英検準1級以上の長文やニュース英語では普通に出てきます。
英文で確認|翻訳練習10問
英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。
- The school provides free lunch for every student.
- Your experience provides a solid base for the next step.
- The hotel provides towels, so you don’t need to bring any.
- We should provide more training for new staff.
- The contract has a provision about remote work.
- You can start today, provided that you have the right tools.
- The company will provide you with a laptop on your first day.
- Small savings provide a cushion when things go wrong.
- She had to improvise when the projector stopped working.
- What you build now will provide for you later.
語源メモ|providere と、その双子たち
provide が英語に入ったのは15世紀初めごろ。もとはラテン語 providere(先を見る・備える・供給する・先見の明をもって行動する)です。分けると pro(前へ・先を)+ videre(見る)。
英語に入った当初の意味は「将来に備える・手配する・計画する」で、今のような「(モノを)提供する」よりも、準備や段取りの意味が先でした。「あげる」ではなく「整えておく」が出発点だったわけです。
この providere からは、ラテン語の段階ですでに複数の形が派生していました。
- 現在分詞系 → providentia(先見)→ providence・provident
- 過去分詞系 provisus → provision・proviso・improvise
英語に入ってくるルートも一本ではなく、ラテン語から直接入ったもの(provide・provision)、古フランス語を経由して形が変わったもの(purvey)、イタリア語とフランス語を経由して19世紀に入ったもの(improvise)と、時代も経路もばらばらです。同じ先祖から出た言葉が、数百年の時差をつけて別々に英語にたどり着いている・・・そう考えると、語源というのは系図というより、長い旅の記録に近いのかもしれません。
なお、providere の後半 videre(見る)は、video・vision・evident・revise・supervise などを生んだ大きな語根です。そちらの広がりは別記事で扱っています。

まとめ
provide は pro(先を)+ vide(見る) で「先を見て用意する」。そこから「提供する」になりました。
- カタカナの入口・・・プロバイダー(provider)=提供する側
- 正反対の兄弟・・・improvise/improvisation は「im(否定)+ 予見された」=予見せずにその場でやる
- provision の三段活用・・・備え → 法律の条項 → 食料
- TOEIC の実利・・・provide A with B、provided (that)=〜という条件で
- 他人の空似・・・improve は語源が別(prode=有利な)
準備して差し出すのが provide、準備なしで立ち向かうのが improvise。どちらも「先が見えているか、いないか」という一点だけの違いです。そう思って眺めると、この2語はもう別々には覚えられなくなります。
関連記事(内部リンク)
- 英単語の語源・パーツ分解 全リスト → https://isseisuzuki.org/etymology-parts-list/
- evident の語源(エビデンスも video も同じ vid)→ https://isseisuzuki.org/evident/
- revise の語源(re+vision = 見直す・修正する)→ https://isseisuzuki.org/revise/
- supervise の語源(super+vise = 上から見る)→ https://isseisuzuki.org/supervise/
翻訳練習の解答例
- その学校は、すべての生徒に無料の昼食を提供している。
- あなたの経験は、次の一歩のしっかりした土台になる。
- ホテルがタオルを用意してくれるので、持っていく必要はない。
- 新しいスタッフには、もっと研修を用意したほうがいい。
- その契約書には、在宅勤務に関する条項がある。
- 道具さえそろっていれば、あなたは今日から始められる。
- 会社は初日に、あなたにノートパソコンを支給してくれる。
- わずかな蓄えでも、何かあったときの緩衝材になる。
- プロジェクターが止まってしまい、彼女はその場で切り抜けるしかなかった。
- 今あなたが積み上げているものが、のちのあなたを支えてくれる。
集録語彙リスト
NGSL(New General Service List)集録語
この単語は New General Service List(NGSL) に集録されています。NGSLは大規模な一般英語コーパスから抽出された約2,800語のリストで、これらを覚えるだけで一般的な英文の約92%をカバーできます。日常会話からニュース、ビジネスメールまで、どの場面でも土台になる一語です。出典:New General Service List Project


