「マルチタスク」「マルチプレイヤー」「マルチビタミン」・・・カタカナの「マルチ」は、もうすっかり日本語です。意味を聞かれたら、たいていの人が「たくさん、複数」と答えられると思います。
その「マルチ」が、そのまま頭に乗っているのが multiply。算数で習う「掛ける」です。
ここで少し不思議になりませんか。「多い」はわかる。でも、なぜ「掛け算」なんだろう、と。しかも multiply には「(生き物が)増える・繁殖する」という意味まであります。掛け算と繁殖が、同じ単語。
実はこの3つ、ぜんぶ「multi(多くする)」の一本道でつながっています。そして入り口は、あなたがもう知っている「マルチ」のままで大丈夫です。
multiply を分解してイメージで覚える|意味の中心は multi
multiply をパーツで見ると、こうなります。
multi(多い)+ ply(重ねる)
前半の multi は、ラテン語 multus(多い・たくさんの)。カタカナの「マルチ」と、意味もイメージもそのままです。ここはズレがありません。
後半の ply は「折り重ねる」。紙を思い浮かべてください。一度折れば2枚、もう一度折れば4枚、また折れば8枚・・・折り重ねるたびに、層がどんどん倍になっていきます。
多く(multi)重ねる(ply)= 数が倍々に増えていく。
これが multiply の意味の中心です。この「倍々に増える」が、算数では「掛け算」になり、生き物の話では「繁殖する」になる。別々の意味に見えて、実は同じ一枚の絵なんです。
※ 後半の ply(折る)は、explicit・implicit・application にも共通する大きな一族です。そちらは別記事でまとめているので、記事末尾のリンクからどうぞ。この記事は multi(多い)側を主役にします。
multiply の基本の意味と使い方
multiply は「増やす」「増える」「掛ける」を表す動詞です。どの意味も、根っこは「数が多くなる」です。
1. 掛ける(算数)
- Multiply seven by eight.(7に8を掛けなさい。)
- Multiply the price by three.(価格を3倍しなさい。)
2. 増やす・増える
- The company multiplied its profits.(その会社は利益を何倍にも増やした。)
- Problems multiply when we wait too long.(待ちすぎると、問題はどんどん増えていく。)
3. 繁殖する
- Rabbits multiply quickly.(うさぎは早く繁殖する。)
日本語では「掛ける」「増やす」「繁殖する」とバラバラの動詞になりますが、英語ではぜんぶ multiply 一語。「数を多くする」という一点さえ押さえておけば、文脈で意味は勝手に決まります。
much・many は、実は multi の仲間ではない
ここで一つ、知っておくと得な話を。
「multi は多い。much も多い。many も多い。じゃあ全部同じ仲間だよね?」・・・形も意味も近いので、そう思いたくなります。でも、ここは外れます。
| 単語 | ルーツ | 系統 |
|---|---|---|
| multi- | ラテン語 multus(多い) | ラテン系 |
| much | 古英語 micel(大きい) | ゲルマン系 |
| many | ゲルマン祖語 *managaz | ゲルマン系 |
much は古英語の micel(大きい)から来ていて、さかのぼると mega(メガ)・magnitude(規模)・major(主要な)と同じ「大きい」の家系に入ります。many はさらに別で、ゲルマン語の「多い」。どちらも、ラテン語経由で入ってきた multi とは血がつながっていません。
英語には「同じような意味なのに、入ってきたルートが違う」単語がたくさんあります。much・many は家に昔からいた言葉、multi はあとからラテン語・フランス語経由で入ってきた言葉・・・そう整理しておくと、「なんで似た意味の単語がこんなにあるの?」という長年の疑問が、少しほどけます。
multi(多い)でつながる単語ネットワーク
multi は、日本語になっているものも含めて、驚くほど多くの単語に顔を出します。
| 単語 | 意味 | イメージ |
|---|---|---|
| multiple | 複数の、倍数 | multi(多い)=いくつもある |
| multitude | 大勢、多数 | multus+-tude=「多い」という状態そのもの |
| multiplex | 複合映画館、多重の | multi+plex=何重にも重なった |
| multitask | 同時並行でこなす | multi+task=仕事が複数 |
| multimedia | マルチメディア | multi+media=媒体が複数 |
| multinational | 多国籍の | multi+national=国が複数 |
| multicultural | 多文化の | multi+cultural=文化が複数 |
| multipurpose | 多目的の | multi+purpose=用途が複数 |
おもしろいのは、multitask・multimedia・multinational あたりは20世紀に作られた新しい単語だということ。2000年以上前のラテン語の multus が、いまも新語を生み続けています。「multi がついていたら、後ろのものが複数ある」・・・この一本さえ通しておけば、初めて見る multi 語でも意味を当てられます。
派生語|multiply まわり
| 単語 | 品詞 | 意味 | 発音 |
|---|---|---|---|
| multiply | 動詞 | 掛ける、増やす、増える | マルティプライ /ˈmʌltɪplaɪ/ |
| multiplication | 名詞 | 掛け算、増加 | マルティプリケーション /ˌmʌltɪplɪˈkeɪʃn/ |
| multiplier | 名詞 | 乗数、増幅させるもの | マルティプライヤー /ˈmʌltɪplaɪər/ |
| multiple | 形容詞・名詞 | 複数の/倍数 | マルティプル /ˈmʌltɪpl/ |
| multiplicity | 名詞 | 多数、多様さ | マルティプリシティ /ˌmʌltɪˈplɪsəti/ |
TOEIC・英検での出題傾向
正直に言うと、TOEIC で multiply そのものが問われる場面は多くありません。圧倒的によく出るのは、同じ family の multiple のほうです。multiple locations(複数の拠点)、multiple options(複数の選択肢)、multiple-choice question(多肢選択問題)といった形で、Part 5・Part 7 に繰り返し顔を出します。
multinational company(多国籍企業)も、ビジネス文書で定番の組み合わせ。multiply は「multiple の動詞仲間」として一緒に覚えておくのが、いちばん効率のいい入れ方です。英検では準2級〜2級あたりで見かけます。
英文で確認|翻訳練習10問
英文を見たら一度止めて、和訳を書いてみてください。答え合わせは記事の最後にまとめてあります。
- Multiply seven by eight.
- Small habits multiply over time.
- Kindness multiplies when you share it.
- The company multiplied its sales in two years.
- Rabbits multiply very quickly.
- Your efforts will multiply, even if you cannot see it yet.
- Problems multiply when we ignore them.
- Multiply your rest, not just your work.
- A good teacher multiplies what one person can do.
- Joy multiplies the moment you pass it on.
語源メモ|multus が英語に入るまで
multiply は、ラテン語 multiplicare(増やす)に由来します。元は multiplex(何重にも折り重なった、何倍もの)という形容詞で、分けると multus(多い)+ -plex(折り重なった)。
これが古フランス語 multiplier を経て、12世紀半ばに英語に入りました。最初の意味は「数や量を多くする」。そこから14世紀半ばに「(自分から)増える・子を産む」という自動詞の使い方が生まれ、14世紀後半に算数の「掛け算をする」が加わります。掛け算の意味は、実はいちばん後からついたというのが、ちょっと意外なところです。
後半の -plex/plicare(折る)は、さらにさかのぼると「編む・折る」を意味する印欧祖語 *plek- にたどり着きます。explicit(外に広げる)・implicit(中に折り込む)・application(当てはめる)と同じ核で、こちらは別記事でまとめています。
なお、multi- のさらに古いルーツについては「強い・大きい」を意味する印欧祖語の語根につながるという説がありますが、辞書でも断定は避けられています。ここは「ラテン語 multus=多い」まで押さえておけば十分です。
まとめ
multiply は、multi(多い)+ ply(重ねる)で「多く重ねて、数を倍々にしていく」=掛ける・増やす・増える。
- multi(multus)・・・多い。multiple/multitude/multiplex/multitask/multinational の一族へ
- 意味の中心・・・折り重ねるたびに層が倍になる、あのイメージ
- much・many は別家系・・・似ているがゲルマン系で、multi とは血がつながっていない
掛け算も、増えることも、育っていくことも、英語ではぜんぶ multiply。少しずつ重ねたものは、いつのまにか倍になっています。

- 語源・中心:multi(multus=多い)+ply(重ねる)=「多く重ねて倍々に増やす」
- 覚え方のヒント:マルチタスクの「マルチ」そのまま。紙を折るたびに層が倍になる
- multi(多い)一族:multiple/multitude/multiplex/multitask/multimedia/multinational/multicultural/multipurpose
- 別家系に注意:much(古英語 micel=大きい)/many(ゲルマン系)は multi の仲間ではない
関連記事(内部リンク)
- implicit の語源(中に折り込む ply のほうの話)→ https://isseisuzuki.org/implicit/
- 【語源で覚える】explicit の意味|”E” マークの正体は ex(外に)+ plic(折る)
- application の語源(アプリ・申し込み・応用が一本につながる)→ https://isseisuzuki.org/application/
- 英単語の語源・パーツ分解 全リスト
→ https://isseisuzuki.org/etymology-parts-list/ 👇

翻訳練習の解答
- 7に8を掛けなさい。
- 小さな習慣は、時間が経つほど大きく増えていく。
- 優しさは、分け合うと増える。
- その会社は、2年で売上を何倍にも伸ばした。
- うさぎは、とても早く繁殖する。
- あなたの努力は、まだ見えなくても、これから増えていく。
- 見て見ぬふりをすると、問題はどんどん増えていく。
- 仕事だけでなく、休む時間も増やしていこう。
- いい先生は、一人にできることを何倍にもする。
- 喜びは、誰かに渡したその瞬間に増える。
集録語彙リスト
この単語は NAWL(学術) と BSL(ビジネス) の両方に集録されています。学術英語でもビジネスでも頻出する、汎用性の高い一語です。
NAWL(New Academic Word List)集録語
この単語は New Academic Word List(NAWL) に集録されています。NAWLは大規模な学術コーパスから抽出された960語のリストで、これらを覚えるだけで学術英語の約92%をカバーできます。論文や英字ニュースを読むとき、必ず出会う一語です。出典:New General Service List Project
BSL(Business Service List)集録語
この単語は Business Service List(BSL) に集録されています。BSLはビジネス英語のコーパスから抽出された1,700語のリストで、これらを覚えればビジネス文書・会議・メールで使われる語彙の約97%をカバーできます。仕事で英語を使う場面で効いてくる一語です。
出典:New General Service List Project

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